写真提供:ZUMA Press/共同通信イメージズ

 国際情勢の緊迫化、サプライチェーンの混乱、原材料費や人件費の高騰、サステナビリティへの関心の高まり――。調達を巡る環境が複雑化する中、日本企業の多くが調達機能の重要度を十分に認識せず、理解のギャップが拡大している。その溝を埋め、環境変化に適合した調達機能へとアップグレードすることは喫緊の課題と言っていい。本連載では、『BCG流 調達戦略 経営アジェンダとしての改革手法』(ボストン コンサルティング グループ 調達チーム編/日経BP)から内容の一部を抜粋・再編集し、調達機能のあるべき姿と機能向上に向けた取り組みを解説する。

 第2回は、調達業務を難しくする「トレードオフ」について解説する。

<連載ラインアップ>
第1回 インテル、IBM、ファイザーほか製薬大手は、なぜサプライチェーンに大規模投資を行うのか?
■第2回 最安値が正義ではない、調達部門が直面しやすい「トレードオフ」の3つのパターンとは?(本稿)
■第3回 アマゾンは、いかにして調達における「競争優位性」を築き上げたのか?(11月8日公開)
■第4回 調達業務が高度化する中、日本企業はなぜ専門人材の供給・育成に注力しないのか?(11月15日公開)
■第5回 CPO(最高調達責任者)設置を基点とした、調達の「経営アジェンダ化」と「ガバナンス構築」のポイントとは?(11月22日公開)

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●トレードオフについて適切な意思決定の仕組みがない

 調達業務の難しさは、たとえコスト低減がミッションだとしても、ただ最安値であれば十分というわけではないことだ。安価になった分、品質にバラツキが出たり、必要な性能要件を満たせなかったりすれば、元も子もない。調達コスト、安定調達、売上や株価へのインパクトなど、調達で検討すべき事項の間には、必ずトレードオフが存在する。

 それに加えて、調達に関する情報や取り組みは、サプライチェーン、営業・マーケティング、広報・IR、財務などの複数部門にまたがっている。調達コストの観点からは最適な部材であったとしても、部材の変更によって製造品質に波が出るのを防ぎたい、変更について顧客と交渉を行わなくてはならないなど、各部門にはそれぞれ事情があり、コンフリクトが発生する。

 さまざまなトレードオフの落としどころをどこに求めるかの判断は、調達部門の手に余るものだ。調達部門が直面しやすいパターンをいくつか見ていこう。

● パターン1 依頼部門の要望が常に優先される

 非常に多いのが、一部の依頼部門の要望に基づいて、調達部門が極端な対応をとらざるをえないパターンだ。例えば、製造部門や営業部門がとにかく顧客に供給することが最優先だと主張するので、コスト度外視で何とか調達する。しかし、褒められるどころか、「なぜこんなにコストがかかっているのか」と非難されることになる。

 先述したように、調達の依頼時期など一定のルールを設けていたとしても、例外措置として依頼部門の要望に応えざるをえないことが多い。ギリギリのタイミングで依頼されても、「喫緊で必要だ」、「お客様に迷惑がかかる」と言われれば、調達部門としては対応するしかない。例外措置を次々に認めていけば、ルールが形骸化する。プロセスの整備だけでなく、運用面を徹底することも課題となっている。

● パターン2 あらゆる観点でサステナビリティ対応を最優先にする

 最近、「環境負荷をかけない素材を使ったパッケージを使っています」というように、関係機関から認証を取得して消費者にアピールしている商品をよく見かける。認証を取得して対外的にアピールすることが悪いわけではないが、それによって選択肢が確実に狭まることを忘れてはいけない。

 特に、調達の観点から見ると、QCD(品質・コスト・納期)の観点で優秀なサプライヤーを選定できなくなる可能性が高まる。そうしたトレードオフも含めて、目的や重要性を検討したうえで、環境対応をするかどうかを意思決定しなくてはならない。

 多くの企業がグリーン電力の利用を増やそうと動いているが、問題は、サステナビリティ対応に乗り出せば、ほぼ間違いなくコストが大幅に上昇することだ。