写真提供:日刊工業新聞/共同通信イメージズ

 建設業界の業績はおおむね堅調だが、その一方で施工力の不足に悩まされている。職人などの人材不足は深刻だ。業界の就業者数は長期的な減少傾向にあり、2024年4月から労働時間規制が強化されている。この難問を解くための1つの方策として、M&Aを選択する企業が増えている。また、ハウスビルダーは国内市場の縮小を見据えて、早い段階からM&Aを通じた海外展開を強化してきた。業績だけに注目すると市場環境は穏やかなようにも見えるが、水面下では事業構造変革に向けたさまざまな戦略が検討されているはずだ。

 M&Aアドバイザリーファーム、フーリハン・ローキーが発表しているセクターレポート「建設業界マーケット動向レポート(2023年度通期)」を監修したマネージングディレクター加藤良輔氏が国内の建設業界の動向を分析する。

(*)当シリーズでは、フーリハン・ローキーが発表しているセクターレポートの監修者が、各業界における主要企業の業績・株価・注目のM&Aの動向から戦略を読み解きます。

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フーリハン・ローキーの業界コンパス

M&Aアドバイザリーファーム、フーリハン・ローキーが発表しているセクターレポートの監修者が、各業界における主要企業の業績・株価・注目のM&Aの動向から戦略を読み解きます。

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堅調な業績の一方で、人材不足と資材高騰の逆風も

 ここ1~2年、建設業界の業績はおおむね好調に推移している。その背景には自治体の災害対策などの堅調な公共工事や、工場、オフィスビルや物流施設をはじめとする旺盛な民間需要がある。北海道と九州で建設が進む大規模半導体工場は、それを象徴する存在と言えるかもしれない。

 一方で、建設の現場を担う人材不足は深刻化している。職人の高齢化に加えて、業界を希望する若者も減少傾向だ。また、2000年前後に600万人を超えていた建設業就業者数は、数年前に500万人を割り込んでいる。

 時間外労働の上限規制が適用されたことによる建設の「2024年問題」は、こうした状況をさらに厳しいものにしている。長時間労働への規制が強化され、人手不足に拍車がかかった。ゼネコンや設備工事会社などからは、「人が足りないので仕事を断った」といった話も多々聞こえてくる。

 建設業界全体の業績は好調とはいえ、例外的な事象もある。2022年度から2023年度の業績を見ると、スーパーゼネコン(上場4社)の総営業利益が3割以上減少した。その反動もあって、スーパーゼネコンは今期6割以上の総営業利益増を見込んでいる。準大手ゼネコンなど他のサブセクターにおいては、これほど大きな業績の変動はない。

 2023年度、スーパーゼネコン4社の中で唯一増収増益だったのが鹿島建設である。国内で適切な選別受注が行われたこともあるのだろうが、海外での開発事業も業績に寄与した。同社は以前から海外事業に注力している。

 スーパーゼネコンの業績が激しく変動する背景には、人手不足による人件費の上昇や資材価格の高騰がある。公共事業の場合、契約後のコスト増を勘案する物価スライドの仕組みがある。そのため、土木比率の高い大手ゼネコンでは、業績への影響は比較的軽微だ。

 一方、民需の割合が高い場合には、コスト増の影響が大きい。大規模なオフィスビルや工場などの開発は数年がかりのプロジェクトだ。契約時に想定しなかった費用上昇分は、多くの場合、請け負った側の負担になる。ゼネコンは価格の見直しを要請しているはずだが、十分な価格転嫁ができるケースは少ない。

 採算割れの案件が増えたことで、2023年度決算では、鹿島を除く大手3社が減益となった。民需の割合が大きい清水建設は200億円以上の営業赤字だったが、今期はV字回復を見込んでいる。

 他のサブセクターに目をやると、空調・電気工事の好調ぶりが目立つ。