清水建設 専務執行役員 建築総本部 生産技術本部長 購買担当・技術担当・知的財産担当の山﨑明氏(撮影:宮崎訓幸)

 清水建設がDX推進に際して、社内向けのデジタルツール開発や技術革新に取り組む一方で、同業他社や異業種との協業にも積極的に取り組んでいる。それはなぜか。建築総本部 生産技術本部長の山﨑明氏に話を聞いた。

「システムをどう使うと業界にプラスになるか」に目を向けるべき

──清水建設は、NTTコミュニケーションズ、竹中工務店と、工程関連データを連携させた「施工管理業務のDX」を進めています。他社との連携や共創に積極的な理由は何でしょうか。

山﨑 明/清水建設 専務執行役員 建築総本部 生産技術本部長 購買担当・技術担当・知的財産担当

1983年清水建設入社、建築現場の施工管理業務に従事、再開発事業建設所長、東京支店建築第二部長、名古屋支店副支店長を経て2016年執行役員就任。横浜支店長、常務執行役員 調達・見積総合センター所長、購買本部長等を歴任、2022年生産技術本部長就任。2023年現職に至る。

山﨑明氏(以下敬称略) 建設業界では1997年から就業者数の減少が始まり、就業者の高齢化も進んでいます。この課題の解決も含め、建設の現場はこの30年で相当機械化されました。建設業界が変わろうとしているのに、私たちの意識が旧来のままでは意味がありません。今こそ、われわれの意識を変える必要があると思うのです。

 当社ではNTTコミュニケーションズ、竹中工務店との協業でデジタル工程表の開発を進めていますが、工程表は当社のようなゼネコンだけでなく、われわれの取引先も使うものです。「建設会社A社はこのシステムで、建設会社B社はまた別のシステム」となったら、取引先は複数のシステムを使わねばなりませんし、その維持に多くのコストがかかります。

 私は建設業界内の共通の業務や情報のやりとりは、できるだけ皆で同じシステムを使っていくべきだと考えています。業界各社が目を向けるべきなのは、いかに優れたシステムを開発するかよりも、そのシステムをどう使うと業界全体にプラスになるかであり、システム自体は協調すべき領域であるべきだと思っています。

——NTTコミュニケーションズと竹中工務店との協業はどのように実現したのですか。

山﨑 作業指示などを現場で共有する工程表は手で書き込むなどまだアナログな部分が多いのですが、2社で開発中のデジタル工程表が精度の高いものになっていると聞き、「当社も参加したい」とお願いしました。2023年度内を目標に完成させ、外販していく予定で、デジタル工程表が完成すれば、建設業界全体が同じシステム基盤で仕事をする環境が整います。

 当社からのお願いに対して竹中工務店が一緒にやろうと言ってくださったのは、「建設RXコンソーシアム」でのつながりもあったからだと思います。建設RXコンソーシアムはゼネコンや建設関連会社が集まって発足させた団体で、現場で使うロボットや機器を共同開発し、建設業界全体の生産性や魅力を向上させる活動をしています。建設業界に各社が力を合わせて協力するための土台ができてきたことは、とても大きな前進だと思います。

——清水建設は異業種との協業にも積極的ですね。

山﨑 レンタルのニッケン、東京センチュリーと共同出資でつくったリードテックという会社では、物流倉庫で使用するフォークリフト型のAGF(自動搬送ロボット)の展開を行っています。建設現場で培った知見を生かし、フォークリフトのオペレーターがタブレット端末のアプリを使って簡単に操作指示が出せるよう工夫しています。

 また、2023年9月に「イノベーション・人財育成拠点」として「温故創新の森 NOVARE(ノヴァーレ)」を東京都江東区にオープンさせました。ここでは異業種の会社やスタートアップの皆さんと一緒に、技術を核とした事業創出を行っています。当社の知見を生かしてさまざまなパートナーと共にイノベーションを生み出したいというのが、この施設をつくった理由です。こうした取り組みも建設業界を変えていけるのではないかと思っています。

建設業界は仕事が属人的になりやすい傾向にある

——清水建設のDXにはどのような特徴があると考えていますか。

山﨑 全ての設計、施工案件にBIM(Building Information Modeling:コンピューター上に現実と同じ建物の立体モデルをつくり、建物づくりに生かす仕組み)を使用している点は大きな特徴だと思います。これまで建物の企画、構造のシミュレーション、図面作成などは別々のソフトを使っていましたが、それらのソフトを1つのプラットフォーム「Shimz DDE」内にまとめ、「Shimz One BIM」で設計や施工用のBIMデータを作成する仕組みを構築しています。これによって設計から施工までに必要なデータをBIMデータで一元管理できるようになっています。

 パソコンに入力しても他のデータとつなげることはできないデータは、旧来のアナログデータと変わりません。建設業界では現状、ほとんどのデータがこうした“アナログ形状”のデータではないかと感じています。先ほどのツールを使えば、データ構造を標準化し、各社が共有することができます。