
現場の技術者とバックオフィスとをつなぐ新たな職域である「建設ディレクター」が、深刻化する建設業界の人材不足を背景に年々注目度を増している。その創出の背景や業務内容、期待される効果や成功事例について、一般社団法人建設ディレクター協会の田辺直子氏が語った講演の概要をお伝えする。
建設ディレクター創出の背景に業界が抱える2つの課題
建設ディレクターが生まれた背景にある建設業界の課題は、大きく2つある。1つは需要拡大に対する人材不足だ。
建設投資がピークの1997年、建設投資額は84兆円、建設業の就業者数は685万人だったが、 リーマンショック後の2009年には投資額は半減、就業者数も497万人まで減少した。
その後、全国のインフラ設備の老朽化や災害の多発などを受けて、2023年には建設投資額はリーマンショック後の値の1.7倍まで回復した。しかし、就業者は減り続けている。田辺氏は 次のように指摘する。「もともと人口減少と高齢化で慢性的な人手不足である上、建設業界は離職率も高く働く女性の比率も少ない傾向です。こうした人材不足の中では、1人当たりの生産量を増やさない限り、社会的に対処できません」。
建設業界のもう1つの課題は、現場(技術者)とオフィスの分断による業務の停滞だ(下図)。
現場の技術者の業務は書類業務が全体の60%を占め、本来の業務に集中できない問題がある。また、現場が毎回変わるためルール化しづらいことや、本社と他の現場に物理的な距離があり、情報共有がままならないという課題もある。
一方、オフィス側では、忙しい現場の技術者を手伝いたいと思っても、専門的なスキルが必要であるため力になれず、教えてもらう時間もない状態だ。