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 建設業界では、今、仕事があっても引き受けられないほど人材不足が深刻になりつつある。デジタル化、ロボット化がいくら進んでも、相変わらず労働集約型の側面が強い建設の仕事。どうすれば多数の働き手を確保し、持続可能な建設業を実現することができるのか?

 日刊建設工業新聞社取締役待遇編集局長の遠藤奨吾氏に、課題解決に向けた人材の確保・育成、DXへの取り組みなどについて聞いた。

事業継続への危機感が一段と高まる建設業界

――建設業界において今、一番関心の高いトピックは何ですか。

【日刊建設工業新聞】

1928年(昭和3年)から刊行され、読者数約34万人、その7割を建設産業関連の経営者・役員および管理職が占める。国内外の最新業界情報に加え、建設業界のキーマン、現場で活躍する人々のインタビューも掲載。毎年東京と近畿で「建設技術展」を主宰するなど、紙面に止まらない情報発信も行う。
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遠藤奨吾氏(以下・敬称略) 働き方改革の進展とその影響です。2025年度には、現場で働く建設技能者が約90万人不足するとも言われていますが、一方で24年度から建設業にも時間外労働の罰則付上限規制が適用され、時間外労働の上限が原則として月45時間、年360時間までとなります。

 それと同時に「物流の2024年問題」も、建設業界への影響が懸念されます。トラックドライバーも24年度から時間外労働時間が年960時間以内(特別条項)に制限されたため、建設資材の流通が滞る恐れがあります。

 足りなくなるのは時間だけではありません。現場の人手不足、資材高騰や労務費上昇によるコストの問題などもあります。このように、さまざまな問題が重なり合っており、発注者から元請け、元請けから下請けに「お願いすれば何とかなる」という時代ではなくなっているというのが、建設業界の共通認識です。建設関連各社では事業継続への危機感が一段と高まり、無理して仕事を引き受ける余力はないのです。

 また、働き方改革で週休2日制にしようということですが、技能者の方には、日給月給制で働く日数が多いほど賃金が増えるため、週休2日を希望しない人もいます。

 それでも働き方改革を進めるのであれば、技能者の収入が減る分をカバーするために、1日当たりの単価を上げなければなりません。そうなれば工事費の上昇につながり、工期も延びます。受注者側の自助努力にも限界があり、発注者側の協力が不可欠です。建設業界にとって働き方改革は、総論賛成でも、なかなか各論部分でうまく進まない、というのが正直なところではないでしょうか。

――とはいえ、技能者に対する待遇を見直さないと、ますます現場で働く技能者の確保が難しくなりませんか。

遠藤 そうなのです。例えば、不当に安い賃金や無理な工期を強いれば、建設業の担い手がいなくなってしまいます。

 建設業は、いくらAIやITの導入が必要だといっても、やはり労働集約型産業の側面が色濃くありますし、重層請負構造による受発注が常態化しています。下へ下へとしわ寄せがいくような状況が放置されてしまえば、業界そのものが成り立たなくなる恐れが生じてきます。

 そのため23年、中央建設業審議会において示された「中間とりまとめ」では、建設現場で働く技能者の方の待遇改善を狙いとして、労務費が適切でない場合や、工期を著しく短くしている場合などに、国が発注者、元請け業者に対して勧告できるような制度改正を行う方向性を示しました。

 この中間とりまとめは、表題に「担い手確保の取組を加速し、持続可能な建設業を目指して」とあります。これはまさに「今、持続可能な建設業の姿を模索し、実行に移さなければ、いよいよ立ち行かなくなるところまで来ている」という、危機感が表れたものでしょう。