建設業界で売上首位のハウスメーカー、大和ハウス工業が現場管理の省人化、無人化を目標に独自のデジタルツール開発に注力している。遠隔でも業務が行える体制を整え、建設業界が抱える人材不足などの課題解決に挑もうというのだ。「DXで建設業界を変えていく」という同社のDXについて、建設DX推進部の小部慶美氏に話を聞いた。
現場から「ありがとう」といわれるデジタルツールをつくりたい
——小部さんは2020年に現場管理の仕事から建設DX推進部に異動しました。どのような経緯でDX推進に携わることになったのですか。
小部慶美氏(以下敬称略) 異動は晴天の霹靂でした。私は入社してから約25年間、住宅を中心に施工現場の監督として働いてきましたから、最初は「なぜ私がDXの担当に」と思いました。特にデジタル領域の知識に詳しいわけでもなかったので、「私みたいなアナログ人間で、大丈夫でしょうか」と上長に相談したぐらいです。すると、「アナログ人間でも使いやすいデジタルツールを企画してほしいのだ」と告げられました。それを聞き、「それならやってみよう」と思ったのです。
——当時のデジタルツールの活用状況はどうだったのですか。
小部 ちょうど、それまで紙で確認や管理をしていたことがタブレット上でできるようになるなど、システムが変化している時でした。建設の現場でも当社の社員である施工現場監督者全員にiPhoneやiPadが配布され、デジタルツールを活用できる環境は整っていました。しかし、それらをどんどん使いこなす人がいる一方で、全く使わない人もいました。現場監督の中で利用度合いの差が広がっていたのです。
そこで、住宅を中心に現場監督として働いてきた自分の経験を生かして、施工現場の建設技能者も含む現場で働く人たちが誰でも使えるデジタルツールの開発に取り組んでいくことにしました。私を育ててくれた現場の人たちに「これは使える」「ありがとう」と言ってもらえるようなデジタルツールを届けたいと思ったのです。これは私のチームミッションになっています。
——デジタルツールの展開に際し、まずは現場のツールの利用状況を確認しに行ったそうですね。
小部 はい。2021年から展開チームを編成して、全国にある当社の事業所を訪問しました。事業所では皆さんがどのようにデジタルツールを使っているのかを確認し、利用頻度が低い現場監督にも話を聞きました。
現場監督者がデジタルツールを使わないのには、何かしらの理由があります。実際、ヒアリングをすると、「アプリケーションの起動に時間が長くかかるから、その間に次のことをやりたくなってしまう」という話が聞け、「起動時間をもっと短くしないといけない」と気が付きます。このような意見をヒントにツールの改善を進めています。
また、デジタルツールの使い方を覚えるのが面倒だという人もいました。覚えるための時間があるなら目の前の業務を進めたいと思うのも、現場監督出身の私は理解できたので、デジタルツールの使い方を対面でレクチャーするなどのサポートも行いました。建設DX推進部は誰一人取り残すことなくサポートすることを目標にしているので、現場へのツールの浸透は今後も続けていきます。
——これまで自社開発したデジタルツールにはどのようなものがあるのでしょうか。
小部 当社では2019年にデジタルコンストラクションプロジェクトを立ち上げ、テーマの一つに含まれる現場管理の省人化、無人化を目指した遠隔での施工現場管理やAIを活用した施工現場管理の企画、検証、展開へ取り組んできました。
その中から2021年に生まれたのが、「物件ポータルサイト」と「ダッシュボード」です。
物件ポータルサイトは施工責任者、施工担当者、施工業者などの関係者が離れた場所から施工現場の情報を共有できるツールで、現場ごとの図面や関係者間のチャットなども一元化されています。
また全国の物件情報を集約して、事業所単位や発注先単位などの横串で可視化を行い、利用者の課題解決につながる情報を提供するのがダッシュボードです。これにより、日々の業務を効率的に進めることが可能になります。
遠隔から複数の施工現場の状況を確認する統合カメラシステム「D-Camera」というツールもあります。この3つで遠隔管理ができる環境を整備し、業務効率と安全性の向上を図っていきます。