戸建、賃貸住宅から商業施設、物流施設などさまざまな建物の建設事業を手掛ける大和ハウス工業。働き手不足の解消と生産性向上を目指し、全社的なDXに取り組んでいる。その陣頭指揮を執る、上席執行役員・技術統括本部副本部長の河野宏氏が、建設現場の働き方を変えるDXの取り組み状況について講演した。
※本コンテンツは、2022年12月9日に開催されたJBpress/JDIR主催「第2回建設DXフォーラム~デジタル化の推進で実現する建設業の⽣産性向上とサステナビリティ経営~」の基調講演「大和ハウス工業がDXで進める建設業の働き方改革」の内容を採録したものです。

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事業領域の広さを生かしたDX推進

 大和ハウス工業の創業は1955年。創業者の石橋信夫氏は「儲かるからではなく、世の中の役に立つからやる」をモットーにしていた。社員は今もこの創業者精神を継承しながら働いている、と河野氏は語る。

 現在、同社のグループ従業員数は約7万2000人、連結売上高は4兆4395億円(2022年3月期)を誇る規模に成長を遂げている。海外にも25の国と地域、54の都市で事業を展開する。

 住宅メーカーというイメージがあるが、同社の事業分野は非常に幅広い。戸建住宅、賃貸住宅、マンションから、商業施設、物流施設や医療施設などの事業施設までさまざまなタイプの建物を建設している。

「それ故、当社が進めるDXには難しさがあると同時に、事業横断で改革を展開できる相乗効果も期待できます」と河野氏は語る。事業領域の広さを逆に生かしながらDXを進めていくことが、同社の強みになるというのである。

 今日の建設業が抱える課題は2つある。まず労働生産性だが、建設業の1時間当たりの賃金は2800円台であり、これは全業種の平均より1500円程度低く、製造業のほぼ半額と非常に低い。

「ここを押し上げていくことが、建設業が一番先にやらなければいけないことです。処遇を改善することで就業者数が増え、若い年代からの支持も得られるようになります」と河野氏は語る。

 また、建設業は、建物を造るだけでなく、そこに住む人の生活を守る大きな責務があり、災害時には復旧、復興に当たる務めがある。建設業は激甚化し、頻度も増している自然災害への対応という大きな課題も抱えている。

 同社では2011年の東日本大震災の際、1万1051戸の仮設住宅、3092戸の復興住宅を建設した。社会的な責務を全うするためにも、建設業の働き方改革は重要になる。

建設業の付加価値向上に不可欠な“机上”と“現場”のデータの融合

 同社では5年前からDXの取り組みを加速させている。まず2017年に、事業施設、商業施設を中心としたビルディングインフォメーションモデリング(BIM)がスタートした。翌2018年には住宅にもBIMの範囲を拡大。全社展開に進む。

 一方、2019年になると、「デジタルコンストラクションプロジェクト」がスタート。これは、建設業の現場の働き方をデジタルで変えていくことを目指した取り組みだ。

 BIMの推進と現場デジタル化の取り組みは、2020年に合流し、建設デジタル推進の全社組織にまとめられた。目的は、デジタルによる働き方の改革の実現と、顧客への提案の改善、データ活用による新ビジネスの創出などである。

 そして直近の2022年には、同社の第7次中期経営計画がスタートした。その中では、過去5年間のデジタルの取り組みをさらに発展させ、デジタルが今後5年の事業成長を支える技術者の生産性向上、建設業の付加価値向上にとって不可欠なものと位置付けられている。

 そこで同社では、ただ単にデジタル化を推進するだけでなく、ビジネスモデルの変革を目指すべきという意志のもと、2022年4月から建設DX推進の組織に改めたという。

 幅広い建設領域の設計データと現場の知見という同社の強みを生かし、DXは進められている。すなわち、BIM(机上データ)とデジタルコンストラクション(現場データ)を融合させることで、設計、製造、維持管理に関するBIMデータを共通データ環境で現場業務に生かすことができる。

 例えば、データを現場での予測型遠隔管理や顧客参加型の情報通信技術(ICT)設計に活用する。その狙いを河野氏は「上流のデータを現場につなげることで、次世代の建築を実現していきます。この流れを繰り返すことで、デジタルツインの環境を作り、新たな価値提供に発展させるビジョンを描いています」と説明する。

現場管理の無人化は始まったばかり

 建設業の現場では、一つの現場を複数の人員の管理作業によってまかなっているのが実態である。同社ではそれを、ICT、デジタルの活用でできる限り省人化し、仕事の結果をデジタルエビデンスとして残す。そしてそのデータを「スマートコントロールセンター」で遠隔管理することを目指している。

 河野氏は、現場管理の無人化の成熟度を測るために、自動車の無人運転のように6段階にレベル化して示す。「レベル0」はデジタル化が全く行われていない従来の現場で、「レベル5」は完全な現場管理の無人化である。

「レベル1では、アナログ作業を脱し、ポータルサイトによる現場管理の支援を行います。そしてレベル2は、カメラや人工知能(AI)の導入による部分的な管理の自動化へとレベルアップします。現在、当社の自動化はレベル2のところと認識しています」(河野氏)

 2026年には、一定の条件を満たす現場について、レベル3の「平常時における現場管理業務の無人化」へ進めていきたいと河野氏は話す。

 現場管理の無人化を進めるうえで、法令への対応も重要問題である。具体的には、レベル0から1への移行時に「労働安全衛生法」、レベル2から3へは「建設業法」という二つの法律をクリアしていかなければならない。

 ただ、規制緩和の動きもある。ICT時代に対応する現行法令の見直しが進められており、2022年4月に国土交通省が、現場の監理に専任の技術者が不要になる建築現場の請負上限金額の引き上げ、さらにICTを活用した兼任可能制度の新設などが検討されている。また、デジタル庁からも、現場の監理に必要な特定元方事業者の巡視を、カメラに置き換えることを可能にするなどの規制緩和が提示されている。こうした法令に関する動きも睨みながら、有人の業務をデジタルに置き換えていくことが重要だという。