建設業界では、生産性向上が従来からの課題であった。特に現在は、2024年問題(建設業での時間外労働時間の上限規制の猶予期間が2024年3月に終了)が迫っている状況から、デジタル技術を活用した施工業務などの効率化による生産性向上が急務になっている。
そのため、建設業の大手企業は、建設現場のさまざまな面でデジタル技術を活用したデジタル変革(DX)を展開している。無人化/省力化のためには、建設現場での施工・清掃・資材搬送のためのロボット活用、建設機械の自動・自律運転や遠隔操作などが進められている。
データ活用の点では、BIM(Building Information Modeling)情報や現場のIoT情報(資機材の搬入/稼働状況等)などを統合したプラットフォームを構築し、データを分析して作業効率化も進む。さらに、デジタルツインによるミラーワールドを構築する技術が、工事現場の状況把握や街づくりなどの用途に活用され始めている。
大手建設会社は、建物の維持管理や運用などからも収益を上げる戦略も取り始めており、建物OS(建物内の設備やシステム、センサーなどを統合管理するプラットフォーム)を開発している企業もある。
業界全体で、こうした建設DXが進む中、私が注目したのが竹中工務店だ。同社は既に複数のデジタルプラットフォームを構築している。また、独自開発の技術以外にも、鹿島建設・清水建設などと建設RXコンソーシアムを組織し、建設ロボットの活用に関する共同研究開発・利用を進めるなど、業界を挙げて取り組むDXにも積極的である。
今回は2024年問題対応だけでなく、その先にどのようなDXの活用方法を考えているかを、竹中工務店の岩下敬三氏に聞いた。
デジタル・ビジネスモデル研究所 代表、博士(システムズ・マネジメント)幡鎌博
1982年に大学を卒業後、富士通入社。2003年文教大学情報学部および経営学部教授に。情報化戦略、ビジネスモデル設計演習などを担当。主な著書は『eビジネス・DXの教科書』 (創成社、2022年)など。
これからのプラットフォームは「つながる・つなげる」が大前提
幡鎌博氏(以下敬称略) 私は仕事柄、さまざまな企業のDXを見てきました。その中でDX推進におけるプラットフォームづくりに注目していますが、竹中工務店が建設プロセスで生じるデータを一元的に蓄積して、AIなどに活用する「建設デジタルプラットフォーム」の構築を推進されたのは、やはり2024年問題を最重要課題と捉えてのことでしょうか。
岩下敬三氏(以下敬称略) そうです。2010年代に始まった第4次産業革命の動きに驚きとともに危機感を感じていたことに加えて、2019年に導入された改正労働基準法の制定が大きな契機です。建設業界の一員として当社の社員だけでなく協力会社の建設技能労働者にも年間総労働時間の上限が課されます。特に建設現場における施工管理部門、内勤における設計部門の体制を整えることは大きな課題です。