マンション建設最大手の長谷工コーポレーションは、これまでの施工累計戸数が69万戸(2022年11月末時点)を超える。全国にあるマンションの総数が680万戸超といわれるから、実に10戸に1戸は長谷工が手掛けた物件ということになり、設計や施工、管理・修繕ノウハウの蓄積も膨大だ。同社の池上一夫社長は、入社以来一貫して設計畑を歩んできた技術系トップということもあり、DX推進は自身の大きなミッションだと考えている。グループも含めた“オール長谷工”が展開する、DXの現在地から将来的な構想まで池上社長に聞いた。(インタビュー・構成/河野圭祐)

「DXアカデミー」を立ち上げ、社員の意識改革を促す

――社長就任直後の2020年4月よりDXを推進していますが、その狙いから教えてください。

池上 2021年3月期から2025年3月期までの5カ年の中期経営計画の中で、DX推進は重点戦略の1つとなっています。マンションの建設だけでなく、竣工後の管理やリフォーム、仲介はもちろん、住まわれる方の生活サポートもワンストップで提供していきたい。それらを実現していくには、長谷工グループが個社ごとに管理しているさまざまなビッグデータをデジタル化し、グループ横断でデータを共有していかなければなりません。

池上 一夫/長谷工コーポレーション 代表取締役社長

1957年7月21日生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業後、1980年4月長谷工コーポレーション入社。エンジニアリング事業部第一設計室設計部長、同事業部第三設計室長、参与副事業部長などを経て、2008年執行役員に就任。2011年取締役兼執行役員、2014年取締役兼常務執行役員、2017年取締役兼専務執行役員(設計部門・関西設計部門・技術推進部門管掌)を歴任し、2020年4月代表取締役社長に就任し現在に至る。

座右の銘:好奇心
DXの先進事例として注目している企業:コマツ
変革リーダーにお薦めの一冊:『イノベーション創造戦略』(ビジャイ・ゴビンダラジャン著)

 DX推進にあたっては、3点を掲げて社内に発信しました。まず、従来よりも仕事を効率化して生産性を上げることで、もっと業績を伸ばしたり、より働き方改革を進めたりして、有給休暇や育児休暇などの取得もさらに促進しようと。

 2つ目は事業のハードとソフトに関わることです。ハード面ではDXの導入でモノ作りの質をさらに上げ、商品バリエーションを増やしていく。マンション建設はこれまで「少品種大量生産」が前提にありましたが、これからはパーソナルなニーズに対してマンションのハードの部分でも応えていく必要があり、「多品種大量生産」を実現するツールがDXなのです。ソフト面では、マンションに住まわれている一人一人のお客さまに、DXを通じて最適なサービスを提供していきたい。

 そして3つ目が、そうしたハード、ソフト両面の進化によって、これまでとは全く違うビジネスモデルの創出が可能になるということです。

――DX推進にあたり、まずどんなことから着手されたのですか。

池上 社内の膨大な書類やアナログ情報をデジタル化することがベースにないと何も始まりませんが、そういう意識改革はトップダウンだけではなかなか浸透しません。そこで2021年11月に「DXアカデミー」をスタートさせました。

 講師に東洋大学情報連携学部長の坂村健教授をお招きし、グループを含めた約8000人の全社員を対象にリモートで講義をしていただきました。多くの社員は「DXって要はデジタル化でしょう」と考えていたのではないかと思いますが、認識を改めてもらい、DXの本質や最終目標は何なのかを、しっかり理解してもらう。それが「DX意識改革プログラム」です。

 このカリキュラムがDXアカデミーの第1弾で、第2弾は2022年4月と8月に実施した、80人の選抜メンバーを対象とする「イノベーションリーダー育成プログラム」です。ここでは専門的なプログラミングの知識も得られるカリキュラムを組み、いわばDXのリーダーを担える人材の育成を主眼に置いています。今後、この80人の人材がそれぞれの所属部署やグループ会社で、DXアカデミーで得た知見を部下や同僚たちに徐々に伝えてもらうことになります。