鹿島建設株式会社 専務執行役員 研究技術開発・建築構造担当 デジタル推進室・知的財産部管掌 福田 孝晴
昭和31年生まれ。昭和54年京都大学工学部建築学科卒業。昭和56年同修士課程修了。同年、鹿島入社。執行役員建築設計本部副本部長、常務執行役員技術研究所長などを経て、現在は専務執行役員としてデジタル推進室を管掌。山口県出身、65歳。

 デジタル技術を活用したビジネスモデル変革を積極的に推進し、新たな成長や競争力強化につなげている「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)2020」に選定された鹿島建設。売上規模が1兆円を超える総合建設業が日本には5社あり、スーパーゼネコンと呼ばれるが、そのうちの1社が鹿島建設だ。

 土木・建築工事の元請として発注者から直接仕事を請負い、工事全体の管理・指導・監督を行う。受注した仕事は、元請からそれぞれ専門の下請会社に発注していくのだが、下請もまた下請へ、元請からすると孫請に仕事を依頼することがあり、工事の規模によっては、下請構造が複数にわたることもある。

 昔ながらの風習や慣習も残り、DXとは最も遠いところに位置するのではと思っていたゼネコンが、いかにDXを推進しているのか。デジタル変革をけん引する福田孝晴 専務執行役員に聞いた。

「つなぐ」をキーワードにした新組織誕生

――2021年1月に「デジタル推進室」を新設されましたが、その経緯と役割を教えてください。

福田 今、世の中では大きな時代の変化が起きています。2015年のSDGsに始まり、IoT、AI、ビッグデータなど新しい技術の登場が第4次産業革命を誘引し、データ中心の世界が到来しました。

 また、昨今のコロナ禍では、社会全体を一気にデジタル化せざるを得なくなりましたが、同時に日本のデジタル化が遅れていることが明らかになりました。

 社会や企業のDXは待ったなしの状態で、弊社のお客さまも時代が変化する中で大きく変わろうとされています。弊社が社会、お客さまの新たな課題にしっかり応えるためには、弊社自身の変革も待ったなしです。社内外のさまざまな方と連携してスピード感をもってDXを推進するために、「つなぐ」をキーワードに新しい組織を設置しました。

――「デジタル推進室」は組織図のどこに位置し、どのような動きをするのでしょうか。

福田 DXは、企業全体を変える取り組みであり、経営戦略そのものです。そのため、デジタル推進室は、社長直轄であるコーポレート部門に位置付けました。

 デジタル推進室の役割は3つです。デジタル戦略を練り、全社に浸透させること。各事業部門がデジタルを使って一体になるために「横串」を刺してつなげること。今までにない新しい領域のサービスを生み出し、仕事の芽を探すことです。

――グループのデジタル推進機能を強化することで、どのようなことを実現させますか。

福田 弊社は2021年5月に中期経営計画(2021~2023)を発表しましたが、ここでは2050年を見据えた上で2030年の企業像を考え、鹿島を成長させるための直近3年間の3本柱「1.中核事業の一層の強化」、「2.新たな価値創出への挑戦」、「3.成長・変革に向けた経営基盤整備とESG推進」を定めました。デジタル戦略については、これら3つの分野に沿った「DXの戦略的推進」計画を策定しました。

 まず1本目の柱である「中核事業の一層の強化」に対しては、中核事業である建設事業をさらに強化するために、担い手確保や生産性・品質・安全性向上など建設業が抱えるさまざまな課題を解決して、魅力ある建設業を作っていきます。この分野を建設DXと呼んでいます。

 次の柱は「新たな価値創出への挑戦」です。当社が得意とするロボットなどのハード技術に、ソフト的な価値を付加して新たな価値を創出する分野です。昨今の課題は複雑化しており、解決のためにはいろいろな要素を組み合わせて取り組むことが不可欠です。また、ソフトを活用した新しいビジネスモデルを作り、弊社グループの事業拡大に挑戦します。この分野を事業DXと呼んでいます。

 最後の柱は「成長・変革に向けた経営基盤整備とESG推進」です。建設DXや事業DXを進めるためには、同時に経営基盤の見直しも不可欠です。グループ全体をつなぎ、新たな時代のグループ経営に最適な基盤を整備する分野であり、業務DXと呼んでいます。

 弊社ではこの3つのDXを平行で動かしていきます。