国土交通省では、データとデジタル技術を活用したインフラ分野のDXを推進。そのための体制強化として、2023年4月に初めてイノベーション担当の大臣官房参事官を設置した。参事官を置いた目的と役割、具体的にはどのようなことを行うのか、国土交通省の森下博之大臣官房参事官に聞いた。

大臣官房参事官の役割は組織横断的な変革を進めること

――2016年に国から建設現場の生産性向上に向けた方針が出されました。国土交通省が掲げるインフラ分野のDX推進の先駆けのように感じます。

森下 博之/国土交通省大臣官房参事官(イノベーション)、博士(工学)、技術士(建設部門)

奈良県出身。1994年大阪府立大学大学院工学研究科機械工学専攻修士課程を修了後に、建設省(現国土交通省)に入省。2001年トヨタ自動車交流派遣、2005年関東地方整備局企画部施工企画課長、2007年総合政策局建設施工企画課企画専門官、2009年中国地方整備局松江国道事務所長、2011年中国地方整備局道路部道路調査官、2016年道路局国道・防災課道路保全企画室企画専門官、2018年総合政策局公共事業企画調整課施工安全企画室長、2020年道路局国道・技術課技術企画室長、2021年九州地方整備局企画部長、2023年4月より現職。
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座右の銘:「和顔愛語」(わげんあいご)。イノベーションを起こしていくために笑顔の力は不可欠だと感じている。

森下博之氏(以下敬称略) ICTの活用を推進する取り組み「i-Construction(アイコンストラクション)」を掲げ、ICTで施工現場を変革することを「ICT施工」と呼ぶようになったのもこのタイミングでしたが、デジタル化の推進はかなり前から行われてきました。

 大学で機械工学を専攻していた私が入省した1994年ごろには、既にICT施工の前身となる「情報化施工」の技術開発が始まっていました。2008年には「情報化施工推進戦略」という普及プログラムの策定に携わり、技術基準の変更やICT機器のイニシャルコストを下げるための支援、人材育成などに取り組んできました。このため、2016年にi-Constructionで「建設現場の生産性革命」が掲げられた時には、これまでコツコツと取り組んできたことがいよいよ本格的に社会に実装されるのだと感慨深いものがありました。

 当初はICTで単体の作業工程を効率化することからスタートしましたが、現在は建設機械の稼働データを基に、ボトルネックになっている作業を改善し、省人化や工事日数削減を実現することに取り組んでいます。さらに今後は施工の遠隔化や自動化を進めたいと考えています。

――大臣官房参事官に就任されましたが、どのような役割を担うのでしょうか。

森下 国土交通省は河川、道路、港湾、空港など管轄する分野が広いこともあり、これまでは各部局がそれぞれDXの取り組みを進めてきました。
しかし、いろいろなアイデアを参考にして、トライ&エラーもあるという前提で進めていかなければイノベーションは起きません。

 今回、イノベーション担当の参事官が置かれた一番の目的は、これまでの経験から得た知識やデータを、国土交通省内の各部局に横展開し、横断的な変革を進めていくことにあります。部局と部局をつなぐなど、積極的に活動していきたいと思っています。