千代田化工建設 執行役員 CHRO 兼 CDO 人事・DX本部長 熊谷昌毅氏

 国内3大プラントエンジニアリング企業の一角、千代田化工建設がプラント建設プロジェクトとコーポレート管理のDXに積極的に取り組んでいる。大規模で長期間にわたるプロジェクト遂行と管理をどう変えようとしているのか、同社のデジタル戦略をリードするCDOである熊谷昌毅氏に聞いた。(インタビュー・構成/指田昌夫)

<編集部からのお知らせ>
本記事でインタビューした熊谷昌毅氏も登場するオンラインイベント「第15回 DXフォーラム」を、2022年11月30日(水)、12月1日(木)、2日(金)の3日間開催します!
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熊谷氏による「プロジェクトマネジメントDX: 千代田化工建設の挑戦」と題した講演のほか、DXの世界的権威マイケル・ウェイド氏の「ポストコロナ世界におけるDX」、名和 高司氏の「次世代イノベーション」など、デジタル化の推進による企業変革の実現方法を学べるオンラインセミナー「第15回 DXフォーラム」(参加登録受付中)

プラント建設のデータには大きなポテンシャルがある

――大規模プラントの建設現場はデジタル化が遅れており、DXが急務だということですが、その理由をお聞かせください。

熊谷 初めに申し上げたいのは、プラント建設において、必ずしもデータを基にした設計や工事の遂行ができていたわけではない、ということです。

 私はエンジニアとしてプラント制御システムや制御デバイスの設計に携わってきましたが、プラント運転のための制御システムは、1990年代からその時代での先端IT技術を取り入れて進化してきており、プラント運転におけるデジタル化は時代に先行してきたと思います。

 また、プラント保守、保全のためのデータ整備という観点でも先行しており、私たちは1990年代後半から、既にプラント保守のためのデータ構築に取り組んできました。

 ビル建設データのデジタル化について、「BIM(Building Information Modeling)」という概念が出てきましたが、実はプラント業界ではBIMが一般的になる前からデジタル化には取り組んできたことになります。そのためか、プラント業界ではBIMという言葉はあまり使われていません。

 このようにプラント設備自体はデジタル化の取り組みが先行したわけですが、一方で設備設計や設備施工の過程では必ずしもデータを活用しきれていないという実態があります。

 プラント建設プロジェクトは、数年にわたり、数十億から数千億円のコストをかけて遂行され、その内容は複雑化していますが、このようなプロジェクトを確実にコントロールするためには設計、機器・資材調達、施工管理の情報を見える化する必要があります。

 プラント建設プロジェクトでは、コスト超過やスケージュール超過を起こすリスクは非常に高く、実際にプロジェクト進捗に支障をきたす例は少なくありません。このようなリスクの兆候をつかみ、対処するためには、さらなるデータの活用、DX化が不可欠なのです。

 プラントの運転や保全分野において情報化が先行したと申し上げましたが、この分野においても、デジタル化によるさらなる改革にチャレンジできるとも考えており、当社はそのような面でもお客さまのご支援をさせていただいています。

プラント建設は、全て同時並行で進む

――プラント建設は、ビル建設と比べてデータの活用が難しいということですが、なぜでしょうか。

熊谷 例えば、ビルの建設では、躯体設計→基礎設計→設備設計…というように、前工程の設計情報を基にして後工程を設計し、必要な部材を調達して工事を進めていきます。つまり、比較的、前工程となる設計の確定情報を基にした設計が進めやすい構造です。

 それに対してプラントの建設は、最初にそのプラントで物質を反応させたり、変化させたりというプロセスの設計をし、そのための装置の設計をします。そして、そのプロセスや装置に必要な配管や鉄骨、電気設備などの設計を進めるのですが、後工程の情報をフィードバックし前工程の設計を更新していく進め方となるため、あらゆる設計要素が平行して進んでいきます。調達や建設工事も、基本は設計と同時平行で進めていきます。

 それぞれの設計部署は、確定前の情報を後工程に流すとそれに対してのコメントを受けてしまい、作業が混乱して、設計が停滞してしまいます。このように設計部署間の情報のやりとりは難しく、大きな設計変更、工事計画変更を伴うような情報がタイムリーに流れなくなってしまいます。

 例えば、各部署が確定情報を作っていく過程で、後工程への影響がデータに示されれば、その調整がスムーズに行えます。

 このようにプラント建設のデジタル化では、各設計工程の設計入出力データや工事計画のためのデータ、つまり“プロジェクトマネジメントのための”データを機能させることが重要です。これを積み重ねていくとプラント設計情報がかなりの粒度でそろうことになります。このような情報のプラットフォームが出来上がれば、現在のBIMを超えた領域の情報量と精度になっていくと考えています。

――プラットフォームにデータが集まると、どんなメリットがあるのでしょうか。

熊谷 個別プロジェクトの設計データの持ち方を進化させ、プロジェクトマネジメントのデータを併せ持っていれば、新しいプラント建設のプロジェクトにも転用が利きます。過去の建設ノウハウを引き継いで施工の精度を上げていくことができる有効なデータ活用になります。IoTなどのデジタル技術の進展によって、工事現場からのデータも収集することで、プラント建設は画期的に進化すると考えています。

 また、このようなプラント建設のためのデータプラットフォームは、プラント運転や保守・保全のためのデータ構築のためにも寄与します。プラント操業のためのデータ構築の規格標準化は進んでおり、規格に対応したデータの統合、それを利活用する環境やシステム作りは急ピッチで進めています。

現場主導で人的リソースの最適配置を進める

――プロジェクトにおけるDXの次に、それを社内の他部門のシステムとつなぎ込む「全社DX」を進めています。その理由は。

熊谷 従来は、各プロジェクトに必要な人員を個別調整し、本社部門が動かしているERPとマンアワー管理などのシステムから見た情報を総合して、リソースの稼働状況を管理してきました。

 しかし、それでは刻々と変化するプロジェクトの状況や、受注計画にタイムリーに対応することができません。そこで、人材管理の機能をプロジェクト側で行う稼働計画管理、営業の受注管理、設計や調達・工事監理部署などの人材配置管理などを連携させた人材管理環境を構築することにしました。

 現場主導で人材リソースの最適化を実現するために、受注計画と遂行プロジェクトの状況からリソースの稼働状況を見える化するとともに、タレントマネジメントシステムと連携させることにより育成計画もリンクしていく仕組みを実現していきます。

社員のマインドチェンジがDX成功のポイント

――熊谷さんはプラントの設計畑から全社のデジタル戦略を主導するCDOを務めていますが、今年度から人事戦略の責任者であるCHROも兼務しています。それはなぜでしょうか。

熊谷 人材はデジタル変革にとって一番の肝だということは、どの企業も同じ考えでしょう。私も、デジタル変革は人材育成と同時に進めなければいけないと思っており、CHROに就任する前から、社内のデジタル人材の育成プログラムを推進していました。

 社長直下の「CDO室」を設け、社内から25人のDX推進責任者を選抜し、各事業部のDXエバンジェリストと共にDXを推進する体制を構築しました。人材育成のための学習の場も提供しています。また、今年度からデジタルコンピテンシーを全社員の評価指標の一つとして加えています。

 ただし、当社がいうデジタル人材とは、単にデジタルのスキルを身に付けた人材のことではありません。業務を俯瞰的に見て、その中で課題を見つけ、デジタルで解決に向けた行動ができる人を指します。

 最も大事なのは、行動が変わることです。デジタルを採り入れて行動が変わる、行動が変わればデジタルの良さがさらに生かされるというサイクルを回すことがベストだと考えています。まだ課題は多いですが、社内のDXへの気運は確実に高まっています。

プロジェクトマネジメントと社内データの連携は、あらゆる業界で役に立つ

――改めて、プラント建設業のDXにおいて、最も重要なことは何だと思いますか。

熊谷 まずは「見える化」です。たかが見える化、されど見える化という言葉が好きで、よく社内でも使っています。

 プロジェクトの遂行情報が見える化することで、自動設計や、自動遂行への道が開けます。自社にノウハウがなくても、情報の見える化ができていれば、外部のスタートアップ企業などと協力して、データ活用を一気に進め、全く新しいプロジェクト遂行に昇華させることができていくと信じています。

 プラント情報は建設して終わりでなく、操業していく中で常に変化していきます。そこでの柔軟なデータ利活用のためにもプロジェクト遂行時からの設計データとプロジェクトデータを蓄積し、見える化できるプラットフォームが欠かせません。

 私たちが作ったプラットフォーム上に、プロジェクト遂行におけるエコシステムを含めたあらゆる設計情報、プロジェクト管理の情報が流通を始めています。この取り組みを進めていくことで5年後には、設計の段階で一歩先の予測に基づくリソースの調整や、プロジェクトの進行を自動化する世界が待っていると信じています。

 そうなれば、DXが遅れていたプラント建設という産業が、一気にDXのトップに躍り出る進化を遂げることができるだろうと、期待しています。

――見える化を徹底するDXの考え方は、大規模プラントの世界以外でも生かすことができそうですね。

熊谷 そうですね。デジタル化は中小のプロジェクトについても、大いに効果が出ると思っていて、次のターゲットにしています。人員当たりの情報量があがることで、より広い範囲の業務をコントロールでき、結果、少ない人数でもより多くの仕事をこなすことができるからです。

 当社のDX推進で、もう一つの重要ポイントは、業務そのものをデジタル化できるデジタル基盤を作るという発想です。これは、プラント建設に限らず、あらゆるプロジェクトに使えると思います。

 特に、今までのようなERPなど経営管理基幹システムの視点から業務管理システムを構築するという発想から転換し、プロジェクトマネジメント業務を俯瞰して、業務そのものをDX化し、経営管理に接合していくことは重要だと思っています。 このようなアプローチによって業界がチャレンジするビジネス変革に対応していけるようになると思っています。

 

 オンラインセミナーではこの考え方を含め、私たちが目指しているDXと、その活用の世界をお話ししたいと思います。

 11月30日から3日間に渡ってに開催される「第15回 DXフォーラム」では「プロジェクトマネジメントDX: 千代田化工建設の挑戦」と題し、千代田化工建設が推進するDXの取り組みを紹介する。

 「DXフォーラム」ではこの他、DXの世界的権威 マイケル・ウェイド氏、「資本主義の先を予言した史上最高の経済学者・シュンペーターの教えから問う『イノベーションの本質』」名和 高司氏など全27講演が予定されている。

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