千代田化工建設 執行役員 CHRO 兼 CDO 人事・DX本部長 熊谷昌毅氏

 国内3大プラントエンジニアリング企業の一角、千代田化工建設がプラント建設プロジェクトとコーポレート管理のDXに積極的に取り組んでいる。大規模で長期間にわたるプロジェクト遂行と管理をどう変えようとしているのか、同社のデジタル戦略をリードするCDOである熊谷昌毅氏に聞いた。(インタビュー・構成/指田昌夫)

プラント建設のデータには大きなポテンシャルがある

――大規模プラントの建設現場はデジタル化が遅れており、DXが急務だということですが、その理由をお聞かせください。

熊谷 初めに申し上げたいのは、プラント建設において、必ずしもデータを基にした設計や工事の遂行ができていたわけではない、ということです。

 私はエンジニアとしてプラント制御システムや制御デバイスの設計に携わってきましたが、プラント運転のための制御システムは、1990年代からその時代での先端IT技術を取り入れて進化してきており、プラント運転におけるデジタル化は時代に先行してきたと思います。

 また、プラント保守、保全のためのデータ整備という観点でも先行しており、私たちは1990年代後半から、既にプラント保守のためのデータ構築に取り組んできました。

 ビル建設データのデジタル化について、「BIM(Building Information Modeling)」という概念が出てきましたが、実はプラント業界ではBIMが一般的になる前からデジタル化には取り組んできたことになります。そのためか、プラント業界ではBIMという言葉はあまり使われていません。

 このようにプラント設備自体はデジタル化の取り組みが先行したわけですが、一方で設備設計や設備施工の過程では必ずしもデータを活用しきれていないという実態があります。

 プラント建設プロジェクトは、数年にわたり、数十億から数千億円のコストをかけて遂行され、その内容は複雑化していますが、このようなプロジェクトを確実にコントロールするためには設計、機器・資材調達、施工管理の情報を見える化する必要があります。

 プラント建設プロジェクトでは、コスト超過やスケージュール超過を起こすリスクは非常に高く、実際にプロジェクト進捗に支障をきたす例は少なくありません。このようなリスクの兆候をつかみ、対処するためには、さらなるデータの活用、DX化が不可欠なのです。

 プラントの運転や保全分野において情報化が先行したと申し上げましたが、この分野においても、デジタル化によるさらなる改革にチャレンジできるとも考えており、当社はそのような面でもお客さまのご支援をさせていただいています。

プラント建設は、全て同時並行で進む

――プラント建設は、ビル建設と比べてデータの活用が難しいということですが、なぜでしょうか。

熊谷 例えば、ビルの建設では、躯体設計→基礎設計→設備設計…というように、前工程の設計情報を基にして後工程を設計し、必要な部材を調達して工事を進めていきます。つまり、比較的、前工程となる設計の確定情報を基にした設計が進めやすい構造です。

 それに対してプラントの建設は、最初にそのプラントで物質を反応させたり、変化させたりというプロセスの設計をし、そのための装置の設計をします。そして、そのプロセスや装置に必要な配管や鉄骨、電気設備などの設計を進めるのですが、後工程の情報をフィードバックし前工程の設計を更新していく進め方となるため、あらゆる設計要素が平行して進んでいきます。調達や建設工事も、基本は設計と同時平行で進めていきます。

 それぞれの設計部署は、確定前の情報を後工程に流すとそれに対してのコメントを受けてしまい、作業が混乱して、設計が停滞してしまいます。このように設計部署間の情報のやりとりは難しく、大きな設計変更、工事計画変更を伴うような情報がタイムリーに流れなくなってしまいます。

 例えば、各部署が確定情報を作っていく過程で、後工程への影響がデータに示されれば、その調整がスムーズに行えます。

 このようにプラント建設のデジタル化では、各設計工程の設計入出力データや工事計画のためのデータ、つまり“プロジェクトマネジメントのための”データを機能させることが重要です。これを積み重ねていくとプラント設計情報がかなりの粒度でそろうことになります。このような情報のプラットフォームが出来上がれば、現在のBIMを超えた領域の情報量と精度になっていくと考えています。

――プラットフォームにデータが集まると、どんなメリットがあるのでしょうか。

熊谷 個別プロジェクトの設計データの持ち方を進化させ、プロジェクトマネジメントのデータを併せ持っていれば、新しいプラント建設のプロジェクトにも転用が利きます。過去の建設ノウハウを引き継いで施工の精度を上げていくことができる有効なデータ活用になります。IoTなどのデジタル技術の進展によって、工事現場からのデータも収集することで、プラント建設は画期的に進化すると考えています。

 また、このようなプラント建設のためのデータプラットフォームは、プラント運転や保守・保全のためのデータ構築のためにも寄与します。プラント操業のためのデータ構築の規格標準化は進んでおり、規格に対応したデータの統合、それを利活用する環境やシステム作りは急ピッチで進めています。