東京ドームや東京2020オリンピック・パラリンピックの会場である国立競技場などの空調設備を手掛け、2023年11月には創立100周年を迎える空調設備工事会社、高砂熱学工業。オフィスビルや商業施設、工場などに向けたBtoB事業を中心に展開し、ここ3年の売上高・営業利益は右肩上がりの状態だ。しかし、同社の横手敏一CDXO(チーフ・デジタル・トランスフォーメーション・オフィサー)は「今のままでは『ゆでガエル』になってしまう。2024年問題も含め対応を急がないと」と変化の必要性を声高に述べる。どう対応するのか、2人のキーパーソンに聞いた。
このままでは建設設備業界を目指す人材が減ってしまう
「高砂熱学工業の主戦場は建設設備業界で、私も40年近くこの世界にいますが、はっきり言って40年前と根本的にはなんら変わっていません。これではまずい」と横手氏は語る。
「忙しいのは昔から全く変わらず、いつしかこの業界を望む人材は減少し、そこに労働時間の上限規制に関する2024年問題が重なり、仕事の仕方や働き方を大きく変えないと、このままでは『ゆでガエル』になってしまいます」(横手氏)
2024年までに時間外労働の上限時間を規制する、いわゆる「2024年問題」は、高砂熱学工業のみならず建設業界全体に大きな対応を迫っている。同社では2020年から横手氏を中心に業務の分析を徹底的に実施。今の仕事に無駄はないか、まとめて効率化につながらないかを探ったという。
この時点では、まだDXという単語は業務変革の中心ではなかったが、「こうした時代の要請がある今こそ、大きく変われるチャンスだと思いました。特に建設関連ではBIM(Building Information Modeling、ビル建設時に建物や設備を一貫して管理するデータベース・システム)によるデータ共有の可能性、それによる生産性向上への期待が高まってきていました」(横手氏)。こうしてBIMというデジタルツールを軸にした高砂熱学工業のDX戦略が形作られていく。
高砂熱学工業のDXにはもう1つ、GX(Green Transformation)というキーワードが登場する。横手氏によれば、高砂熱学工業のDXを実践すれば、それはそのまま脱カーボンであるGXにつながるようになっているという。ビルの建設や運営において、一番エネルギーを使うのは実は空調だ。DXで空調設備のエネルギー効率をアップできれば、世の中の省エネに貢献することができる。