ダイダンCIO 上席執行役員の佐々木洋二氏

 深刻な人材不足と高齢化が進む建設業界。その中でビルの設備工事を担うダイダンは「人を活かすDX」を掲げ、常に現場発のアイデアや要望を拾い上げてきた。社員みなが働きやすく、効果を実感できるDXとは何か──。その手法と成果について、同社CIO上席執行役員の佐々木洋二氏に聞いた。

社内浸透を図った「人を活かすDX」

 ダイダンは、ビルの設備機器工事の企業である。主に空調、電気設備、給排水の配管と機器の設置とメンテナンスを行っている。

 同社は2021年2月、2030年に向けた長期ビジョンを発表した。CIOの佐々木洋二氏は、その理由を次のように説明する。

「当社は中長期の経営計画の中で、拡大路線を取っており、現状1600億円ほどの売り上げを、まずは2000億円規模の企業にしていくことを目指しています。そのためにも、これまでの総合設備工事業から、空間の価値をお客さまと創っていく『空間価値創造企業』への変革を進めます。2030年までの9年間を3つの中期ステージに分けており、今は最初の3年間で、国内外で基盤を整備する段階となっています」

 長期ビジョン達成のためには、設備工事業においてデジタルをどう活用していくかが鍵を握る。特に同社が力を入れるのが、「人を活かすDX」である。

「建設業は現場での作業が必ず必要な労働集約型産業です。つまり社員がいなければ成り立ちません。ならば、社員が生き生きと働ける環境を作ることが欠かせません。現場のエンジニア、またはバックオフィス業務で働く社員が、働いていたいと思える職場でなければいけない。そのために、デジタルをどう活用していけばいいのか。これが人を活かすDXという言葉に至った理由です」

 社内の一部からは、このメッセージは内向きなのではないかと批判されたこともあったという。だが同社では、すでにいくつかのDX事例が実績を挙げていた。佐々木氏らはそれらの取り組みこそが、人を活かすDXの具体例だと示しながら、社内に浸透を図っている。

 同社が過去5年ほどで取り組んできたデジタル活用の事例を見ていこう。