キリンホールディングス代表取締役社長COOの南方健志氏(撮影:宮崎訓幸)

 酒類や清涼飲料、医薬品に次ぐ第3の柱を育てるべく、ヘルスサイエンス事業に注力するキリンホールディングス(HD)。2024年の年内には無添加化粧品やサプリメントの製造販売で知られるファンケルをTOB(株式公開買い付け)によって100%子会社化する。キリンHDがヘルスサイエンス領域を強化、拡大する背景と今後の成長シナリオについて、代表取締役社長COOの南方健志氏に話を聞いた。

キリンがヘルスサイエンス事業に注力し始めたワケ

──ヘルスサイエンス事業を本格的に立ち上げたのは2019年でした。当時、磯崎功典社長(現・代表取締役会長CEO)は、世界のビールメーカー首脳と会合で接した際、WHO(世界保健機関)のアルコール規制強化などを含めて、世界的に酒類事業の先行きが厳しくなっていく見通しを共有し、危機感を持ったと話していました。

南方 健志/キリンホールディングス代表取締役社長COO

1961年生まれ、広島県呉市出身。東京大学農学部卒業後、1984年キリンビール入社。茨城県取手、岡山、横浜や豪州Lion社など国内外での工場勤務などを経て、2012年キリンビール企画部長に就任。2015年キリンホールディングス常務執行役員経営戦略担当ディレクター、2016年ミャンマー・ブルワリー社長、2018年協和発酵バイオ社長、2022年協和キリン取締役、同年取締役常務執行役員ヘルスサイエンス事業本部長、2023年ブラックモアズ社取締役などを歴任し、2024年3月より現職。
------
座右の銘:「誠心誠意を尽くす」
愛読書:『緒方貞子回顧録』/組織トップ自ら現場を飛び回り改革を牽引する姿に共感

南方健志氏(以下敬称略) 特に日本の場合、30年前の1994年をピークに、以後ビール市場はずっと縮小してきました。

 人口減少や少子高齢化に加え、若年層はスマホなどの通信関連費にお金を使い、お酒は苦みのあるビールを敬遠する傾向が明確に出てきています。こうした流れがある中で酒類事業では付加価値のある新しい提案をするなどしていかなければなりませんが、それだけに頼っていてはリスクが高まる一方です。そこでヘルスサイエンス事業に力を入れ始めました。

 さかのぼると、キリングループでは2013年から本格的にCSV(社会的価値創造と経済的価値創造の両立)を経営の根幹に据え、酒類メーカーとしての責任に加え、健康、環境、コミュニティという3つの領域の社会課題解決をしながら、事業としても成長させる方向にかじを切っています。酒類事業以外でわれわれの強みが生かせる分野に早めに進出していこうという考え方があったわけです。

キリンのCSVパーパス
拡大画像表示

──目下、ヘルスサイエンス事業の基盤になっているのが、「おいしい免疫ケア」や「iMUSE(イミューズ)」のブランド名で展開している独自素材のプラズマ乳酸菌ですね。

南方 プラズマ乳酸菌を発見したのは2010年のことで、そこからどう事業に生かしていくかを模索し、2017年から順次、iMUSEブランドでプラズマ乳酸菌入り飲料やヨーグルト、タブレットなどを発売していきました。

 その後、2020年には科学的なエビデンスの裏付けをもって、免疫に関する商品として日本で初めて機能性表示食品の認可を取得し、成長が加速しています。免疫は人間の健康の土台をつくる重要な要素ですので、プラズマ乳酸菌は日本のみならず、グローバルに展開していく考えです。

プラズマ乳酸菌の主要商品