今年10月、2017年度の酒税法改正以降2回目となる酒税改正が行われる。前回同様ビールが減税、新ジャンル(=第3のビール)は増税となることから、ビールメーカー各社は市場拡大の好機と見て、ビールの新商品を相次いで投入する予定だ。その中でキリンビールはどんな戦いを挑んでいくのか。同社の堀口英樹社長に聞いた。
本稿は「Japan Innovation Review」が過去に掲載した人気記事の再配信です。(初出:2023年9月25日)※内容は掲載当時のもの
10月の酒税改正を見据えたキリンの販売戦略とは?
――間もなく2回目の酒税改正が実施されますが、今後のビール類市場(ビール、発泡酒、新ジャンル)の展望を聞かせてください。
堀口英樹氏(以下敬称略) 減税でビール市場が活性化する一方、新ジャンルは増税になるのでビールとの酒税格差は縮まるものの、原材料の違いなどもあってビールと新ジャンル商品の価格差は残ります。3年後の2026年には、再度ビールが減税されてビール類の税額が一本化されるわけですが、それ以降もビールの区分はプレミアム、スタンダード、エコノミーという形で残っていくでしょう。
エコノミーカテゴリーの新ジャンルは、勝ち残るうえでより重要となるのが「ブランド力」です。新ジャンルで売り上げナンバー1か2、もしくは3までの商品に入っていれば、2026年以降もきちんとプレゼンスをもってやっていけるはず。当社で言えば「本麒麟」と「のどごし〈生〉」ですが、前者は味の本格感、後者は喉ごしの爽快感を訴求したことで棲み分けができており、この2ブランドを引き続きしっかり支えていく考えです。
「淡麗」シリーズの商品で我々が強みを持つ発泡酒は今回も酒税が据え置きとなりますので、新ジャンルからの顧客流入が増えてくるかもしれません。発泡酒のカテゴリーは、淡麗ブランドで言えば淡麗グリーンラベルや淡麗プラチナダブルなど糖質やプリン体を抑えた商品が多いので、今後も機能性をキーワードに盛り上げていきます。
一方、減税で市場拡大が期待されるビールについては、柱の商品である「一番搾り」のラインアップを充実させていきたいと考えています。
一番搾りブランドは定番の一番搾り生ビールと一番搾り糖質ゼロの2品に加え、10月10日に「一番搾り やわらか仕立て」を期間限定で発売します。この商品は通常の大麦麦芽に加えて小麦麦芽を使用したことからまろやかで飲みやすく仕上げてあり、一番搾りのユーザーの裾野をぜひ広げていきたいところです。もう1つ、岩手県遠野産のホップを使用した「一番搾り とれたてホップ生ビール」(11月7日発売)という今年で発売20年目になる期間限定商品もあり、この秋は計4つのラインナップで訴求します。
――ビール、発泡酒、新ジャンルの販売構成比は各社違いがあり、たとえばビールが多いのはアサヒビールとサッポロビール、新ジャンルに強いサントリーなど濃淡がありますが、キリンビールはかなり均衡している印象です。
堀口 新ジャンルが増税となると、我々にとって必ずしもフォローウインドなことばかりでないのは事実です。ただ、だからこそビールだけでなく全てのカテゴリーにしっかりと投資をしながら、ビール類の酒税が1本化される2026年に向け、さらにブランドを育成していかなければと思っています。
――10月以降、主戦場となりそうなビールのラインアップという意味では、一番搾り以外に「キリンラガー」もあります。こちらは2020年、10年ぶりにリニューアルして以降も控えめな販促にとどまっていますが、根強いファンも多いこの商品の今後の販売戦略についてどうお考えですか。
堀口 キリンラガービールについてはあまり大きなマーケティング投資はしていませんが、何しろ1888年に発売された我々の原点でもあるビール(発売当時は「キリンビール」と呼ばれていた)であり、長い歴史を持って長く愛されてきたブランドです。現在、我々のビールカテゴリーの中でキリンラガービールの販売構成比は約15%程度ですが、これからも大切なブランドとして販売していきます。
――2016年から2018年にかけては、47都道府県の一番搾りや9工場別の一番搾りを発売しました。地域限定のご当地ビールということで、それぞれ味わいも違って好評だったと思います。時期を見て復活する可能性はありますか。
堀口 それぞれの地域の方々には大変ご愛顧いただき、またその地域の産物や原料も使わせていただくなど大変盛り上がりましたので、時間とコストをかけてでも地域貢献できた点と、一番搾りのブランド価値向上の点で一定の成果、目的は果たせたと考えています。
今後については、たとえばクラフトビールの領域でさまざまなパートナーと組んでビールの多様性を打ち出すなど、あらゆるパターンが考えられるでしょう。