キリンホールディングス 経営企画部DX戦略推進室 主幹の近藤龍介さん

 キリングループは、2019年に発表した長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027」において、イノベーションを実現する組織能力の一つに「価値創造を加速するICT」を掲げた。より多様化するお客さまの生活・消費スタイルや嗜好に合わせた商品やサービスの提供が市場で求められていることから、強みの技術力や営業力だけでなく、デジタルも含めてお客さまに近付くプロセスの変革が必要だと考えているのだ。

 キリンホールディングス 経営企画部DX戦略推進室 主幹の近藤龍介さんは「私たちはシステムの専門家を育成するのではありません。ビジネスの現場やお客さまにまつわる課題解決に向けて、システム会社に対して、『デジタルを使って、何をどうしたいか』と自分なりに語れる人材を育てたいと考えています」と語る。

 近藤さんが所属するDX戦略推進室は、グループ各社・機能部門のハブとなり、全領域で横断的にDXの取り組みを推進することを目的に2020年4月に設立された。約20人強で構成される組織のメンバーは、情報部門だけでなく、研究開発部門やマーケティング部門、営業部門、生産部門など多様なキャリアを持っている。キリン社内の業務をよく知っている社員が一番課題に詳しいと考えた上でのメンバー選定だ。

「デジタルは目的ではなく、あくまで手段です。例えば、『今まで多くの社員が紙などで行っていたアナログ業務について、既存プロセスを見直すとともにデジタル化することで効率化できないか?』と考えられる視点を持ってほしいと考えています」(近藤さん)

キリングループ横断のDX実行体制
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 もともとキリンは事業会社を中心にデジタルマーケティングなどに積極的に取り組んできたが、基本的にはデジタルICTの取り組みは専門部署が中心となってやるものという認識が多くを占めていた。そうした中、各社が抱える経営課題をデジタルで解決するため、ビジネスの現場やお客さまに近いところでDXの取り組みを推進するため、DX戦略推進室は大きく2つのテーマに取り組んでいる。

 一つは、営業から販売、マーケティング、SCM、生産などから人事、経理、法務まで「全領域でグループ横断的にDXの取り組みを推進すること」。そのために立ち上げたのが「グループDX推進委員会」である。各事業会社からDX推進委員と呼ばれる責任者を1人選定し、所属する事業会社ごとのDX戦略を策定・推進していく。その際、情報部門のバックアップを受けつつ、各事業会社から領域ごとに2、3人選出された「ICTサポートメンバー」と呼ばれる社員と取り組みを進めるのが特徴。こうした横串体制でグループや領域を横断してDXに取り組んでいる。

 もう一つが「DX人材の確保」。社内でDXの取り組みを拡大すれば、DX専門人材が不足し、取り組み自体が進まないことが懸念される。そのため、採用活動などを通じてデジタルICTへの関心度・適応力が高い人材を発掘する一方、社内トレーニングを通じてデジタルICT人材を育成する。それが「DX道場」だ。