サントリー常務執行役員ビール本部長の多田寅氏(撮影:宮崎訓幸)

 2023年10月に酒税改正が行われ、ビールの酒税が下がり、新ジャンル(いわゆる第三のビール。現在は発泡酒②の区分)の酒税が上がったことで消費者のビール回帰が進んでいる。中でも競争が激しいのが、アサヒビールの「スーパードライ」、キリンビールの「一番搾り」、サッポロビールの「黒ラベル」など各社の看板ブランドがひしめくスタンダードビールの市場だ。サントリーでは昨春、同市場に「サントリー生ビール」を投入したが、今後どんな打ち手でビール商戦を勝ち抜いていくのか。サントリー常務執行役員ビール本部長の多田寅(ただ・すすむ)氏に話を聞いた。

若年層に向けて開発をスタートした「サントリー生ビール」

──スタンダードビールの市場は今春、キリンが新たに「晴れ風」(麦芽100%のすっきりした味わいの熱処理ビール)を投入するなど、各社の攻防が激しくなっています。

多田 寅/サントリー常務執行役員ビール本部長

1974年生まれ。1996年サントリー(現サントリーホールディングス)入社。東京支社で業務用の営業をした後、2004年からプレミアムウイスキーのブランドマネージャーを務め、2016年より海外戦略部で海外向けスピリッツやRTDのマーケティング・開発を行い、2017年「ROKU〈六〉」を発売。2019年より国内ブランドも管掌し、「翠(SUI)」を発売。2022年ビールカンパニープレミアム戦略部長、2023年同マーケティング本部長を経て、2024年より現職。

多田寅氏(以下敬称略) 他社から新商品が出ると、当社に限らず一時的にシェアを落とすのが常ですが、おかげさまで新定番ビールとしてポジションを確立している「サントリー生ビール」(以下サン生)は販売量を落としておらず、伸長しています。

 長らくビールの総市場が右肩下がりだったのは販売数量ベースの話ですが、われわれがずっと課題意識として持っていたのは、ビール市場に新たなお客さまの流入がなかなかないことでした。そこで、スタンダードビールという最もボリュームの大きな市場で新しい提案をすることで、ビール類市場の再活性化へ挑戦したいという思いからサン生の開発が始まったのです。

「サントリー生ビール」

 サン生は従来とは開発手法を変えています。これまではまず定性的なニーズの仮説を立て、その仮説を検証し、ある程度いけるという手応えをつかんだら定量面からも検証していく流れでした。一方、サン生ではリアルな消費者の声を徹底的に集めることから始め、若い方々も含めた延べ1万人にヒアリング調査を行いました。

──若年世代のエントリー層に向けた商品として開発をスタートしたのですね。

多田 はい。サン生を発売するまで、サントリーのビールといえばビールらしい麦の味わいをより前面に出す狙いから、「ザ・プレミアム・モルツ」(以下プレモル)や終売した「ザ・モルツ」は麦芽100%でした。

 しかし、1万人の調査結果を見ると、食事や気分転換したい時、頑張った1日の締めくくりなどのシーンで、従来の麦の味わいがしっかりあるビールでは、飲用後にどうもすっきりしないという声が多く寄せられたのです。

 そこで今回は麦芽100%ではなく、コーングリッツ(トウモロコシを挽いて作られた穀粒)を入れる製法によって“グッとくる飲みごたえと飲みやすさ”を両立させました。

 われわれが考えるビール市場における若年層とは40歳以下の世代を指しますが、サン生は狙った世代に支持されています。

資料提供:サントリー
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──サン生は他社のスタンダードビールと比べて店頭価格は低めです。価格訴求も消費者の支持を得る上で大きかったという認識はありますか。

多田 結果としてそういう側面もあるかもしれませんが、われわれはプレミアム領域のプレモルを起点に商品ポートフォリオを組み、併せて価格も考えています。

 従来はプレモルとスタンダードカテゴリー商品との価格差の幅が狭く、お客さまからも「どう違うのかよく分からない」という声をいただいておりました。そこでプレモルと、サン生や「パーフェクトサントリービール」(通称PSB。糖質ゼロビール)などのスタンダード領域、それにエコノミー領域となる新ジャンルの「金麦」の3層それぞれで、一定の価格差となるようなポートフォリオを組みました。

「ザ・プレミアム・モルツ」ブランド