サントリーホールディングス ピープル&カルチャー本部 部長の長政友美氏(撮影:堀江宏旭)

 サントリーグループ(以下、サントリー)の企業内大学「サントリー大学」は、2015年4月、新浪剛史サントリーHD社長を学長として設立された。背景には、当時のサントリーにおける事業環境の大きな変化があったという。2023年には「100年キャリア学部」を新設し、キャリアの長期化を見据えた学びにも注力している。現在、約4万人に及ぶ国内外従業員を対象に、8万以上のコンテンツを提供するサントリー大学の学習内容や運営体制について、サントリー大学を担当するサントリーホールディングス ピープル&カルチャー本部 部長の長政友美氏に聞いた。

開校につながった、グローバル戦略による「従業員の多国籍化」

――2015年に「サントリー大学」を開校しました。なぜ企業内大学を立ち上げたのでしょうか。

長政 友美/サントリーホールディングス ピープル&カルチャー本部 部長

新卒でサントリーに入社。営業部門、人事部を経て輸入酒や飲料のマーケティング(ブランドマネジメント)を担当。秘書部に異動の後、再び人事部門へ。グローバルモビリティ、グローバル人事企画を経て、2022年より人材育成(サントリー大学)を担当。

長政友美氏(以下敬称略) 一つの大きな理由は、当時グループで急速に進んでいたグローバル化への対応です。サントリーでは2000年代後半から、海外企業のM&Aを積極的に行いました。2014年には米ビーム社を買収し、現在グループは国内外4万人を超える規模に拡大しました。

 組織が大きくなりビジネスが各地域のニーズに対応する形で展開する中で、構成する社員も多様化しています。多様なバックグラウンドや価値観を持った国内外の従業員を束ねるためには、求心力となるものが必要です。企業理念は、従業員がサントリーらしさを理解し、共感を得ていくために不可欠なものだと考え、グローバルの従業員にそれを浸透させる場としてサントリー大学を設立しました。

 サントリーの企業理念は、創業精神につながるものであり、すべての従業員が大切にすべき価値観を含んでいます。挑戦の姿勢を表した「やってみなはれ」や、事業活動で得た利益を社会やお客さまに還元する「利益三分主義」などはその代表です。

 国内の従業員は、これらの言葉を日頃から理解しています。しかし、新たにグループに加わった海外の従業員には、ゼロから伝える仕組みが必要です。それも日本とは文化が異なり、地理的にも遠いとなれば、丁寧に時間をかけて浸透させることが求められました。企業理念は、サントリーのリーダー層に求められる考動項目「サントリーリーダーシップスピリット」にも反映されています。

 併せて、企業理念以外にも、世界中のサントリー社員がスキルや知識を学習できる仕組みを設ける必要性を感じていた点も、サントリー大学につながっていきます。

 開校から10年近く経ちましたが、企業理念の浸透がグローバルの結束力を高めていると感じます。例えば「利益三分主義」について、サントリーでは総合福祉施設や保育園の運営、水源涵養のための森林保全活動など、その精神を実践してきました。こうした歴史を知った海外の従業員も、サントリーの一員になったことに誇りを感じ、今度はその精神をどう自分の持ち場で体現しようか考えるようになります。

――サントリーの創業精神である「やってみなはれ」は、どのような言葉に翻訳して伝えているのでしょうか。

長政 あえて外国語に翻訳せず、アルファベット表記で「Yatte Minahare」と伝えています。その上で、この言葉の意味や文脈、その裏にあった創業者の挑戦や試練などを、現地の言葉で詳しく説明しています。「やってみなはれ」という言葉を短い外国語に翻訳すると、この言葉の本来の意味合いをどうしても伝え切れないと感じたためです。