雇用や報酬などを取り巻く環境と共に従業員の働き方が大きく変貌を遂げる中、時代に先駆けて「人的資本経営」を目指し、人事戦略の改革に挑戦してきたカゴメ。会社と従業員との関係が新しい局面を迎えた現代にあって、同社では多様な価値観をもつ人材のマネジメントを、企業戦略の中でも最も重要な課題の1つに位置付けている。毎年進化を続けるカゴメの人事制度改革について、同社常務執行役員CHO(最高人事責任者)の有沢正人氏に話を聞いた。

※本コンテンツは、2022年11月21日に開催されたJBpress/JDIR主催「第2回人・組織・働き方イノベーションフォーラム 人・組織・働き方領域におけるDXの推進で人的資本経営の高度化を実現」の特別講演1「『人的資本経営』を目指し毎年進化するカゴメの人事制度~Withコロナ時代の経営戦略と人材戦略の連動を目指して~」の内容を採録したものです。

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「人的資源」から「人的資本」への移行で、人材を経営戦略に組み込む

 これまで約10年間にわたり「人的資本経営」を推進してきた常務執行役員CHO (最高人事責任者)の有沢正人氏は、カゴメの経営戦略について、一橋大学CFO教育研究センター長の伊藤邦夫教授による『人材版伊藤レポートVer 2.0』を用いて解説する。

 人的資本経営とは、言い換えれば「Human Resources(人的資源)」から「Human Capital(人的資本)」への移行だ。つまり、これまで企業が人件費=「コスト」と捉えていたのを、企業の成長の源泉となる「資本」として捉え直し、その人材の価値を最大限に引き出すこと。それによって、中長期的な企業価値向上につなげる経営の在り方のことである。これを踏まえて有沢氏は、同レポートの中でも、特に「経営戦略と人材戦略の連動」の重要性について解説する。

「経営環境が急速に変化する中で、持続的に企業価値を向上させるには、経営戦略の実現という将来的な目標設定に加え、そこから逆算した実現のための人材戦略が不可欠です。とりわけ重要なのは、これらの戦略やビジョンに適した人材選びを、経営陣自らが主導すること。その上で経営戦略とのつながりを意識しながら、キーポジションの選定や、目指すべき姿(To be)と現状(As is)とのギャップを『定量的』に把握することが求められます」

 この「定量的な把握」は、人材戦略が経営戦略と連動しているかを客観的に判断し、人材戦略を不断に見直していくために極めて重要なポイントになる。その意味で、こうした人的資本に対する「統一された評価基準」を明示するのは、経営陣の重要な仕事だ。そして、こうした「人的資産」から「人的資本」への転換と、経営戦略と人事戦略の連動を実現する効果的な手法の1つが「ジョブ型人事制度」の導入だと、有沢氏は語る。

「経営」と「人材」戦略をつなぐ基盤となる「グローバル・ジョブ・グレード」

 有沢氏は2012年のカゴメ入社後、人的資本経営の実現には、何よりもトップ自らの変革が重要と確信。ジョブ型人事制度導入の手始めとして、役員人事制度の構築に着手し、評価基準であるジョブ・グレードも導入した。これが現在の「グローバル・ジョブ・グレード」の出発点となっている。

 グローバル・ジョブ・グレードは、3要素・8項目の評価指標から「職務の大きさ」を定量化して算出して、各ポジションを格付けするもの。世界中どこで、どんな仕事をしていても公平な基準で評価され、公正な処遇を受けられる、全世界共通の評価制度である。

 このグローバル・ジョブ・グレードを中心基盤として、企業戦略やビジョンを実現するまでの流れを可視化し、「経営戦略」と「人材戦略」連動の全体像を体系的に捉える。この結果、キーポジションが明確化し、どのような会議体が必要であるか、ふさわしい人材は誰で、必要なトレーニングは何かという具体的な戦略が可能になると有沢氏は説明する。

「またこれをもとに、従業員は自分の今のポジションを把握し、全体の中で相対化させながら、次にどこのポジションを目指すかを決めることができます。自ら理解して決定することでモチベーションが明確化し、社員のキャリア自律につながるのです」

 ジョブ型人事制度への変革は、「『年功型』から『職務型』等級制度への移行」「より業績・評価と連動した報酬制度への改革」「メリハリを付けた明確な処遇の実現」をポイントに行われた。

「カゴメでは、仕事に対し最適な人材を割り当てる適所適材を行っています。仕事の成果・価値が明確になり、健全な競争意識のもとで抜擢人事が進み、組織と個人の成果最大化と、グローバルに勝てる事業推進体制の構築を目指しています」と、有沢氏は強調する。

 またこのようなジョブ型人事制度への変革のほか、役員の固定報酬と変動報酬の比率をステークホルダーに配慮した現在の比率に変更。その周知のため社内報で「社長の年収大公開」という企画を立て、変更前と変更後の社長の月額報酬の実額を公開したという。

「それを読んだ社員からは『有沢さん、こんなものを載せて大丈夫なのですか?!』という驚きの声が挙がるとともに、部長・課長からは『カゴメ変わりましたね』という言葉を聞きました。人事制度は、経営からのメッセージです。カゴメが人的資本経営を目指す強い意志や覚悟を示す意味で、まずはトップ自らが変わることが何より大切です」