住友電気工業 執行役員 人材開発部長の國井美和氏(撮影:本永創太)

 主体性のある人材を育成するには、マネジメント層の意識改革がポイントになる──。人材育成の成功の鍵をこう語るのは、住友電気工業 執行役員 人材開発部長の國井美和氏だ。実際に同社では、幹部や部門長といったマネジメント層に向けてさまざまな取り組みを進めているという。國井氏に詳しい内容を聞いた。(第3回/全3回)

*SEI(住友電工の英語表記Sumitomo Electric Industriesの略)

人材の主体性につながる「心理的安全性」と「フィードバック」

――住友電気工業(以下、住友電工)では、なぜいま「主体性のある人材」の育成が必要だと考えているのでしょうか。

國井美和氏(以下敬称略) 新たなイノベーションは、従業員自ら動く「主体性」から生まれると考えているからです。当社の取締役会長を務める松本正義は、よく「気骨ある異端児」と表現しますが、まさにそうした人材を増やしていきたいのです。

 当社の人材は、与えられた指示をそしゃくし、的確に遂行する力において非常に高いものがあります。それに加えて備えてほしいのが、一人一人がやりたいことや実現したい目標を持ち、主体的に進める力です。その一人一人の目標が、当社のビジョンや目指す方向に合致している状況が理想です。

――主体性のある人材を育てるために必要なことは何ですか。

國井 幹部やマネージャーといったマネジメント層が、部下に対して「心理的安全性の担保」と「フィードバック」をきちんと行うことだと考えています。

 まず前者について、若い人材のチャレンジや積極的な提案は、心理的安全性という土台があって促進されるのではないでしょうか。まだ詳細はお話できない段階ですが、そのための研修や仕組みも構築し始めています。

 加えて、日常的なコミュニケーションを丁寧に行うことも、心理的安全性につながると考えています。

 例えば、日々の何気ない挨拶が上司と部下の関係構築や心理的安全性につながる面もあるでしょう。当たり前のコミュニケーション故に、毎日職場で顔を合わせていると、挨拶がおろそかになることもあります。最近の研修では「きちんと挨拶をするように」と、あえて伝えています。

「フィードバック」については、部下が主体的な行動を起こした際、上司がその行動に対する評価やアドバイスをきちんと行うということです。フィードバックがあることで、行動を起こした本人も、周りの人も次の主体的な行動へとつながります。

 当社の研修にはコーチングのプログラムが多数ありますが、このような意識から、「フィードバック」もコーチングの研修で取り組む重点スキルの一つとしています。コーチングというと「傾聴」の意識が強く、部下の意見や思いを聞くことには注力していますが、その先のフィードバックも重要です。

――主体性のある人材を育てる鍵は、マネジメント層の振る舞いにあると。

國井 上司であるマネジメント層の理解があってこそ、従業員が自分で目標を持ち、行動することにつながるのではないでしょうか。その一環として、当社のモノづくりにおいては「部門長研修」という研修プログラムを実施しています。