yu_photo/Shutterstock.com

 人的資本経営、女性活躍推進・ダイバーシティ推進は、経営者にとって喫緊に対応すべき課題だが、日本では近年なぜここまで女性活躍がクローズアップされるようになってきたのだろうか。そしてこうした取り組みは、企業にとってどのような価値を生み出すのか。本連載では『女性活躍から始める人的資本経営 多様性を活かす組織マネジメント』(堀江敦子著/日本能率協会マネジメントセンター)から、内容の一部を抜粋・再編集。女性活躍やダイバーシティと経営戦略をどのように紐づけ、取り組んでいくべきか、先進企業の経営層と著者との対談からヒントを探る。

 第7回では、第4回からに続きキリンホールディングスの事例を紹介。同社が全社展開している疑似体験プログラム「なりキリンママ・パパ」を取り上げ、女性活躍・DEI推進が、いかにして強い組織の構築へとつながるかを学ぶ。

【社内外コミュニケーション】
なりキリンママ・パパの全社展開で、DEIの意義が全体に浸透

女性活躍から始める人的資本経営』(日本能率協会マネジメントセンター)

堀江:営業職女性の活躍推進を目指すプロジェクトで取り組まれた、パパやママの立場を1ヶ月間、擬似体験するという「なりキリンママ・パパ」も話題になりましたね。弊社スリールでも「体験」を主眼に研修を行っており、管理職に育児体験を行ってもらう「育ボスブートキャンプ」というプログラムも行っています。改めて、御社にとって自分ごと化するような効果はどれ位あったのでしょうか。

坪井:「なりキリンママ・パパ」は、子どもがいない若手社員が1ヶ月間ママになりきり、時間制約のある働き方にトライするという実証実験でした。時間の制約、子どもの保育園への送迎、突発的な対応などが発生するというリアルな想定の上で実施し、労働生産性を向上させるために奔走するというものだったのですが、「新世代エイジョカレッジ」で大賞をいただきました。

堀江:実証実験プログラムをそのまま全社展開されたのですね。

坪井:はい。実証実験で終わらせるのではなく、2019年には全社展開を始めました。擬似体験するシチュエーションを「育児」だけでなく、「親の介護」「パートナーの病気」の中から選び、時間の制約や突発事態に対応しながら1カ月間体験してもらいました。本人だけでなく周りも含め、仕事の棚卸しをして効率的に考えるという体験ができて、「こうすればチームは回る。育児中の人がいても大丈夫だ」と確信が持てたなど、成果を上げていると思います。また、全社の中で「なりキリン」を知らない人はいないと思います。

堀江:凄いですね。浸透しているという現れですね。つまりは、誰かが休んでも回るような働き方や仕組みを創っていくという意識は高まっているのですね。

坪井:そうですね。もちろんまだまだ課題はありますが、「そうあらねばならない」という意識は高まっていると思います。

堀江:広報もご専門かと思いますが、なりキリンのように、社外に取り上げられて外部から言われるようになったことで、社内に意識が浸透したなと感じる事もありますでしょうか。

坪井:それはとてもあると思います。社内だけで実施しただけでは、実施している意義や価値が理解できなかったりすることもあると思います。また他社が行っている事が「自分達にもできそう」と思えることもあると思います。また、人事の施策は競合であっても情報交換を行うことができるなと感じます。だからこそ、人を育てていく事は社会課題であり、社会で行っていく必要があると思います。