人的資本経営、女性活躍推進・ダイバーシティ推進は、経営者にとって喫緊に対応すべき課題だが、日本では近年なぜここまで女性活躍がクローズアップされるようになってきたのだろうか。そしてこうした取り組みは、企業にとってどのような価値を生み出すのか。本連載では『女性活躍から始める人的資本経営 多様性を活かす組織マネジメント』(堀江敦子著/日本能率協会マネジメントセンター)から、内容の一部を抜粋・再編集。女性活躍やダイバーシティと経営戦略をどのように紐づけ、取り組んでいくべきか、先進企業の経営層と著者との対談からヒントを探る。
本連載後半は、キリンホールディングスの事例を紹介する。第4回では、同社における女性活躍・DEIのベースとなっているCSV経営の考え方や取り組みについて見ていく。
<連載ラインアップ>
■第1回 日本IBM社長山口明夫氏に聞く 女性管理職の育成のためのプログラム「W50」とは?
■第2回 日本IBM社長山口明夫氏に聞く マネジャーはなぜ社員評価で「前任者との比較」をしないのか
■第3回 日本IBM社長山口明夫氏に聞く 女性活躍推進にとどまらない、新しい働き方の追求とは?
■第4回 キリンHD副社長坪井純子氏に聞く 被災しても工場は撤退せず、同社が進めるCSV経営とは?(本稿)
■第5回 キリンHD副社長坪井純子氏に聞く 女性経営職人材が約3倍に増えた「早回しキャリア」とは?
■第6回 キリンHD副社長坪井純子氏に聞く なぜ役員1人が社員10人のメンターを務めるのか?
■第7回 キリンホールHD副社長坪井純子氏に聞く 「なりキリンママ・パパ」で試した誰かが抜けても回る仕組みとは
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キリンホールディングス株式会社
早回しキャリアで女性管理職プール人財を育成し、「なりキリンママ・パパ」で全社浸透を実現
キリンホールディングス株式会社は、2006年にキリン版ポジティブアクションを制定し、2007年に社長(当時)のトップダウンによる女性活躍に必要な施策を経営陣に提言する草の根活動「キリンウイメンズネットワーク」を発足。先進的に女性活躍推進を進めてきました。また2019年に策定した「キリングループ長期経営構想(KV2027)」において、グループ共通の価値観“One Kirin Values”に、従来の「熱意」(Passion)、「誠意」(Integrity)に加え、「多様性」(Diversity)」を追加し、世界のCSV先進企業となる」ためのドライバーは、「多様性」であると設定。またリーダー女性比率を2030年に30%にすることを掲げた長期計画を策定(2022年策定)し、経営戦略として女性活躍・DEIを積極的に推進。令和3年度「なでしこ」/ダイバーシティ経営企業100選にも選出されています。
2021年時点での女性社員比率は25.9%(新卒採用における女性社員の割合は42%)、女性管理職比率は10.9%、女性役員比率は23.1%でした。女性管理職比率は、食料品製造業平均の7.4%を上回っています。
同社の取組みについて、①経営陣の取組み②現場(人事)の取組み③社内外コミュニケーションの3つの視点で、キリンホールディングス株式会社 代表取締役副社長・CPO、法務統括 坪井 純子氏にインタビューを行いました。
【経営陣の取組み】
CSV経営としてのドライバーを多様性と設定し、社内と対話する
堀江:CSV経営ということで、とても分かりやすく「グループ・マテリアリティ・マトリックス:GMM」を創られていますが、どういった経緯でここまで細かく設定しようという話になったのでしょうか。また経営戦略として、DEIを事業の中で1番インパクトの高い位置に据えている意味を改めて教えてください。
坪井:CSVとは「Creating Shared Value」の略で、日本語では「共有価値の創造」という意味になります。2011年にハーバード大学のマイケル・ポーター教授らが提唱した環境や社会課題の解決と経済活動を融合し、持続的成長の推進力としていく経営モデルです。社会と企業にとってWIN-WINになるようなバリューをクリエイトするということが経営のコンセプトとなっています。これはつまり、企業が価値創造をしない限り生き残れないということでもあります。ダイバーシティをどうやってイノベーションに繋げるのか、それが企業が生き残る、あるいは成長し続けるために必須要件だということです。社会に合わせて事業がトランスフォームしていく。だからこそ、CSVのCはコーポレートではなくクリエイティングなのです。