5年までにリーダー経験や一皮むける経験を行うことが、本人の昇進意欲にも、実際の昇進にも影響します。キリンホールディングスの場合は、性別関係なく、早回しで経験を積ませることを意識させるということを上司層に伝えていますが、この施策自体が、早期に上司のジェンダーバイアスを解消する機会にも繋がります。
「女性だから無理だと思ってアサインしていなかったが、実際はそんな事がなかった」等の気づきが起こります。これを育児期以降にタフアサインメントを行うと、時間的体力的な制約もあり難しい部分も出てきます。だからこそ、早回しで育成することは、様々な方向でメリットがあるのです。
女性管理職を増やすとなると、どうしても「まずは管理職に上げることから…」ということで、その施策に集中しがちです。しかしそうなると、数年後に蓋を開けてみたら「対象になるような社員がいない…」とプール人材が育成されていないと焦る企業もいます。プール人材構築の意識を持ちながら施策を行うと、強固なパイプラインが構築できるのです。
最後に、やはり「なりキリンママ・パパ」の有効性についてです。前述では、ダイバーシティの意識浸透に役立っている点について述べていますが、この施策は働き方改革という側面でも大変有効です。
このプログラムは、お迎え要請が来た場合15時でも退社をしていくという内容になっています。つまり「指定された2週間のうち、上司も含めていつ誰が15時に帰るか分からない」中で仕事をすることになるのです。その為、その危機を乗り切るために、チームで仕事を持ってみたり、情報共有を行えるようにしてみたりと組織が動くようになります。
また実際に上司が15時に帰っても、意外に大丈夫! という成功体験も得られることで「誰が帰っても大丈夫なような仕組みを創れば、強固な組織になる」という意識が生まれていきます。そうなると、通常の業務自体にも改善をしていくという動きが出てきます。これが本質的な組織改革に繋がるのです(弊社で行っている「育ボスブートキャンプ」は、更に実際に育児体験していただいています)。
なりキリンママ・パパも含めて「管理職が体験をすること」が大きな影響があると感じます。社員は全員(自分も含めて)、プライベートがある中で仕事に来ていて、仕事は生活の一部でしかない。だからこそ、仕事の質を高めながら、効率的に行い、従業員の生活の質を高めるにはどうすれば良いのか? これを考えられる会社が、強い組織に繋がり、選ばれる会社になるのだと考えます。
<連載ラインアップ>
■第1回 日本IBM社長山口明夫氏に聞く 女性管理職の育成のためのプログラム「W50」とは?
■第2回 日本IBM社長山口明夫氏に聞く マネジャーはなぜ社員評価で「前任者との比較」をしないのか
■第3回 日本IBM社長山口明夫氏に聞く 女性活躍推進にとどまらない、新しい働き方の追求とは?
■第4回 キリンHD副社長坪井純子氏に聞く 被災しても工場は撤退せず、同社が進めるCSV経営とは?
■第5回 キリンHD副社長坪井純子氏に聞く 女性経営職人材が約3倍に増えた「早回しキャリア」とは?
■第6回 キリンHD副社長坪井純子氏に聞く なぜ役員1人が社員10人のメンターを務めるのか?
■第7回 キリンHD副社長坪井純子氏に聞く 「なりキリンママ・パパ」で試した誰かが抜けても回る仕組みとは(本稿)
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