写真提供:DPA/共同通信イメージズ

 ショート動画の作成・投稿・シェアが手軽にできるSNS「TikTok」。その人気はユーチューブやインスタグラムといった先行世代のSNSを圧倒し、マーケティングツールとして注目する企業も多い。運営母体のバイトダンスが中国のテック企業であることも耳目を集める理由の1つだ。本連載では、同社の戦略やTikTokの開発、急成長の背景を探った『最強AI TikTokが世界を呑み込む』(クリス・ストークル・ウォーカー著/村山寿美子訳/小学館集英社プロダクション)から、内容の一部を抜粋・再編集。

 第6回は、人気のクリエイターやインフルエンサーを引き入れる「スカウト戦略」に焦点を当てる。

<連載ラインアップ>
第1回 前身アプリ「ミュージカリー」から継承したTikTokの「成長モデル」とは?
第2回 無名だった中国企業バイトダンスは、なぜ動画アプリ「フリッパグラム」を買収したのか?
第3回 群雄割拠のショート動画市場、中国版TikTok「ドウイン」を生んだ差別化戦略とは?
第4回 人の注意力持続時間は8秒…それでも見続けてしまうTikTokの巧妙な仕掛けとは?
第5回 TikTokの「おすすめ動画」はなぜクオリティが高く、ユーザーの関心にマッチするのか?
■第6回 競合SNSのインフルエンサーに100万ドルを提供、TikTokの強気のスカウト戦略とは?(本稿)


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最強AI TikTokが世界を呑み込む』(小学館集英社プロダクション)

 タレントにも出費がなされた。クリエイター基金はユーザーをランク付け、アクセス者やユーザーを連れてくるとみなせば、大金を派手に使おうとした。セレブは安くはつかないため、ティックトックはアカウントを登録しているもののほかのプラットフォームで活動するクリエイターにはお金を提供したいと考えていた。

 ティックトックからのキャスティング依頼がインフルエンサーを通してマーケティングエージェンシーにまき散らされ、すでにユーチューブやインスタグラムで活躍しているコメディアン、ゲーマー、DIYインフルエンサーやペットクリエイターなどに、ティックトックでコンテンツを投稿しないかと要望した。アカウントを作るためにティックトックは彼らに500ドルを提供した。

 1週間のスケジュールに従って投稿した動画ごとに、彼らは25ドルを受け取った。ティックトックは8週間で、週に3本、11秒から16秒の動画を投稿することを期待した。インフルエンサーはほかのソーシャルメディアについては、キャプションにせよ、動画にせよ、コメントは許されず、ハッシュタグ#TikTokPartnerに含まれなければならなかった。

 要望をすべて満たすと、インフルエンサーには銀行口座に1100ドルが振り込まれた。また、10万ビューに達した動画ごとに追加で200ドル、20万ビューごとに300ドル、100万ビュー以上に達した動画には500ドルが支払われた。

 どれだけの人がティックトックの申し出に応えるのだろうか。#TikTokPartnerとタグ付けされた公式インフルエンサーの投稿がある一方で、約13万5000本の動画がハッシュタグを使っており、約780億回見られていた。ティックトックの分析ツールであるPentosを使って集めたデータによれば、そのハッシュタグを用いている動画は平均約5万8000回見られていた。

 このようなボーナスを求めるインフルエンサーにとって、アプリに4分半の動画を投稿するたびに1万3000ドル稼ぐことが理論的には可能となる。もっと大きなニンジンが別のインフルエンサーの目の前にぶら下がっていた。

 2018年12月、多くのインフルエンサーがインフルエンサーマーケティングエージェンシーと契約すると、ティックトックにコンテンツを投稿し始めるよう求められた。その代わり、彼らは500ドルを受け取り、パフォーマンス次第で5000ドルのボーナスを稼ぐことができた。