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 ショート動画の作成・投稿・シェアが手軽にできるSNS「TikTok」。その人気はユーチューブやインスタグラムといった先行世代のSNSを圧倒し、マーケティングツールとして注目する企業も多い。運営母体のバイトダンスが中国のテック企業であることも耳目を集める理由の1つだ。本連載では、同社の戦略やTikTokの開発、急成長の背景を探った『最強AI TikTokが世界を呑み込む』(クリス・ストークル・ウォーカー著/村山寿美子訳/小学館集英社プロダクション)から、内容の一部を抜粋・再編集。

 第1回は、TikTokの前身アプリ「ミュージカリー」開発企業創業者、アレックス・ジュー(朱駿)のビジョンに迫る。

<連載ラインアップ>
■第1回 前身アプリ「ミュージカリー」から継承したTikTokの「成長モデル」とは?(本稿)
第2回 無名だった中国企業バイトダンスは、なぜ動画アプリ「フリッパグラム」を買収したのか?
第3回 群雄割拠のショート動画市場、中国版TikTok「ドウイン」を生んだ差別化戦略とは?
第4回 人の注意力持続時間は8秒…それでも見続けてしまうTikTokの巧妙な仕掛けとは?
第5回 TikTokの「おすすめ動画」はなぜクオリティが高く、ユーザーの関心にマッチするのか?
第6回 競合SNSのインフルエンサーに100万ドルを提供、TikTokの強気のスカウト戦略とは?
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最強AI TikTokが世界を呑み込む』(小学館集英社プロダクション)

 ティックトックは抜群に使いやすい。まずスマホを手に取り、録画ボタンを押し、スワイプしてさまざまなフィルターを使い、15秒あるいは60秒以内の動画を撮影する。

 音楽の短い断片動画を追加するのもいい――ヒットチャートから取ってもいいし、ほかのどこから取ってきてもいい――そしてできあがった動画をアプリにアップロードする。さらに、見つけてもらいやすくするためにハッシュタグを付ける。

 動画の内容は、ユーザーが自由に決める。パルクールアーティストなら高層ビルのあいだを命知らずのジャンプで飛び移る映像。ティーンエイジャーなら寝室でダンスを踊り、政治的なメッセージを自分たちの姿にかぶせてキャプションとして画面上に映しだす。

 ある者は歌い、ある者は踊り、それを見つめる人たちもいる。そこには何の摩擦もない。ただただシンプル。直観的で中毒性がある。そしてユーチューブ以上に、ビューアーとクリエイターの境界が取っ払われている。

 ティックトックはその短い歴史のなかで、あらゆる記録を吹き飛ばした。2018年1月、ティックトックの月間利用者数は5400万人に達した。その年の終わりには2億7100万人、翌年には5億700万人まで増加した。

 2020年7月には6億8900万人が毎月ログインし、その数は2006年に設立されたツイッターの2倍である。2020年の第2四半期には、ヨーロッパで5000万人、アメリカで2500万人がティックトックを自分のデバイスにダウンロードした。5000万人のアメリカ人が毎日このアプリを開いている。アプリのオフィシャルデータによると、2018年1月の10倍に増加している。

 これらはアメリカのハイテク大手が夢見ることしかできなかった数字だ。ユーチューブは設立から15年経ってようやく月間利用者数が20億人に達した。フェイスブックは13年かかった。ティックトックが現在の流れを維持できたら、おそらく4分の1の期間で同レベルに達するだろう。

 人々がハイテク技術を採り入れる動きには加速度がつくこと、そのうえ注目度ナンバーワンの新アプリならその噂はあっという間に広がることを考えれば、この成長についてある程度説明がつくだろう。だが大きな要因は、他より抜きん出ることでその成功を巧みに推し進めたティックトックそのものにある。