ショート動画の作成・投稿・シェアが手軽にできるSNS「TikTok」。その人気はユーチューブやインスタグラムといった先行世代のSNSを圧倒し、マーケティングツールとして注目する企業も多い。運営母体のバイトダンスが中国のテック企業であることも耳目を集める理由の1つだ。本連載では、同社の戦略やティックトックの開発、急成長の背景を探った『最強AI TikTokが世界を呑み込む』(クリス・ストークル・ウォーカー著/村山寿美子訳/小学館集英社プロダクション)から、内容の一部を抜粋・再編集。
第4回は、ドウインとTikTokが爆発的人気を博した「2つの要因」を解き明かす。
<連載ラインアップ>
■第1回 前身アプリ「ミュージカリー」から継承したTikTokの「成長モデル」とは?
■第2回 無名だった中国企業バイトダンスは、なぜ動画アプリ「フリッパグラム」を買収したのか?
■第3回 群雄割拠のショート動画市場、中国版TikTok「ドウイン」を生んだ差別化戦略とは?
■第4回 人の注意力持続時間は8秒…それでも見続けてしまうTikTokの巧妙な仕掛けとは?(本稿)
■第5回 TikTokの「おすすめ動画」はなぜクオリティが高く、ユーザーの関心にマッチするのか?(11月13日公開)
■第6回 競合SNSのインフルエンサーに100万ドルを提供、TikTokの強気のスカウト戦略とは?(11月20日公開)
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成功への2つのカギ
ドウインとティックトックは急速に世界へと広がった。それは徹底的な競合分析と細部への強いこだわりのおかげだ。しかしこれらのもつ特徴に目を向けると、2つのアプリをライバルから際立たせたのは、とりわけ2つの特徴だった。1つ目は動画の長さ、2つ目は動画を提供する際のアルゴリズムだ。
まずは動画の長さについて。注意力の持続時間は自分たちの周囲の世界によって変化しやすく、影響を受けやすいものだ。気が散る要因――お腹をすかせた赤ん坊の泣き声、やるべき仕事のチェックリスト、大きなプロジェクトの差し迫った締め切り――をすべて取り除けば、長く詳細な物語を綴った本書のような本に没頭することができる。
だが、気が散る要因を次から次へと積み重ねていくと、集中力があっという間になくなることに気づくだろう。科学者が長年研究し、心配しているのがそれだ。日々あふれんばかりに与えられる情報が、深い思考力や数秒以上何かに取り組む能力を阻害するのではないか。
明らかにそうだろう。カナダの研究者が、ミレニアムの変わり目に2000人を対象に注意力の持続時間の研究をし、そして同じ実験を15年後に再び行った。そのあいだに――家庭用コンピューターが急激に普及し、ユーチューブとiPhoneが出現、手ごろな家庭用ブロードバンドインターネットの有用性が上がりコストが下がった――人間の脳がスイッチを切る前に1つのことに集中できる能力は12秒から8秒へと3分の2に減少した。
ほんの短い時間しか集中できないという当面の関心事の観点からだけの話ではない。さまざまな研究者による長期的分析から、情報が豊富にあふれていることと注意力の消耗とは関連があることがわかっている。「新しいものを求める衝動によって、人間はトピックをまとめて迅速に切り替えようとする」とマックス・プランク教育研究所の研究員が話してくれた。
私たちの注意力持続時間の減少に多少なりとも責任のあるソーシャルプラットフォームが、わずかばかりの集中力を与える手助けもしている。ティックトックは私たちの注意力が続くあいだだけ注意を引き、続いてそのままスクロールしてくれそうな次の動画を提供するよう微調整されている。