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 中国では、今回の春節の大型連休(2024年2月10~17日)で延べ何十億人もの人々が大移動した。だが、最近、中国の新聞でのこの出来事の取り上げ方が変わってきたと感じている。海外旅行や中国国内旅行の回復に関する記事よりも、越境ECに関する記事が目に付くようになってきているのだ。

 実際、2023年ごろから「SHEIN」や「Temu」の動向をはじめ、中国の越境ECに関する記事が増えているが、最近は中国新興ECの代表格「PDD(ピンドゥドゥ)」が運営するTemuの広告と記事を頻繁に目にするようになっている。

 この連載では以前、越境ECに関する寄稿(「起業の勢いが鈍化している中国で、越境ECが台頭」) をしたが、今回、改めて中国における越境ECの発展状況を整理したい。

「中国国内でのEC利用者の増加は限界」という指摘

 経済産業省が取りまとめた「令和3年度デジタル取引環境整備事業(電子商取引に関する市場調査)報告書」によると、世界のEC市場規模ランキングで中国は首位となっている。

 ただ、その一方で最近指摘されているのが、「中国国内でのEC利用者の増加は限界を迎えており、新たな市場での新規ユーザーの獲得が必要不可欠」という局面を迎えていることだ。

 実は2000年代に入ってから中国企業の海外進出が本格化している。当初は国有企業がその主役だったが、それが資金力のある民営企業(不動産など)やテック企業、消費関連分野の企業へと変わりつつある。

 とりわけ、近年は中国経済の低迷や市場の飽和、競争の激しさから、海外に新たな活路を求める中国企業が増えており、そうした中で、中国の越境ECブランド・プラットフォーマーも欧米や東南アジアを軸にグローバル市場の開拓を急いでいる。

 中国税関の統計によると、中国の越境EC輸出入額は、輸出の増加を主因に2019年から増え続けており、2023年は前年比12.8%増の2兆3800億元となった(下の図)。

 2022年の越境EC輸出入額の内訳をみると、輸出先として米国市場が34.3%と最大のシェアを占めている一方、輸入先は日本が21.7%と首位となっている。これは中国観光客による日本旅行や爆買いはまだコロナ前の水準を回復していないものの、越境ECを通して日本の商品が買われている表れと言ってもよいだろう。

中国の越境ECの強みは「生産能力、新商品投入スピード、物流」

 SHEINやTemuなど越境ECの先行組のセールスポイントは「究極の低価格」だが、それを可能にしているのが「世界の工場としての中国の生産能力、新商品投入スピードの速さおよび物流の整備」である。

 今、物流の分野では「越境ECブランド・プラットフォーマーとタッグを組んでいる現地市場の中華系物流ベンチャー企業の成長」が起こっている。

 例えば、インドネシアで創業し、中国に逆上陸した「極兎(J&T Express)」はその1社である。同社は2023年10月に香港市場への上場を果たし、中国・東南アジアから他の国・地域へ勢力を拡大している。

 また、中東では元Huawei(ファーウェイ)社員の黄診氏が2017年に立ち上げた「iMile」もTemuの提携先として、EC関連の配達に注力している。2019年にカナダで設立された「UniUni」はラストワンマイル配送を手掛けており、越境ECブランド・プラットフォーマーに関連サービスを提供している。

 越境ECの後発組も基本的に「生産能力、新商品投入スピード、物流」のアドバンテージを生かし、海外市場を攻めようとしている。先ほど、越境ECで中国の生活者が日本の商品を買っていると記したが、今後は中国の越境EC勢力が日本に進出し、インバウンドビジネスが好調な日本企業と激しい競争を繰り広げると著者は考えている。