ピーター F.ドラッカー氏
写真提供:共同通信社

 1984年に「ユニクロ」を立ち上げ、ファーストリテイリングを世界的な企業に育てた柳井正氏。一方、初代シビックはじめ数々のホンダ車をデザインし、本田技研工業の常務を務めた岩倉信弥氏。二人はビジネスにおけるデザインの重要性を追求した点で共通している。本連載では『一生学べる仕事力大全』(致知出版社)に掲載された対談「ドラッカーと本田宗一郎~二人の巨人に学ぶもの~」から内容の一部を抜粋・再編集し、組織と経営の本質に迫る両氏の対話を紹介する。

 第3回は、会社と顧客の関係、ホンダ流のプロジェクト推進について取り上げる。

<連載ラインアップ>
第1回 「世界」を常に意識した本田宗一郎が、部下に繰り返し投げかけた質問とは?
第2回 ユニクロ柳井正氏は、なぜドラッカーを読んでもピンと来なかったのか? 
■第3回 「企業は誰のものか」の答えとは? 会社の本質を見抜いたドラッカーの名言(本稿)
第4回 がむしゃらに働くと、なぜ仕事は面白くなるのか?
第5回 ユニクロ柳井正氏が捉えた、本田宗一郎とドラッカーの共通点とは?

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本田宗一郎の教えは日本企業の教え

一生学べる仕事力大全』(致知出版社)

柳井 僕は本田さんの教えは、日本企業そのものの教えにも通じるんじゃないかと思うんです。要するに、全員で経営をやらせていく。社員も経営者も、全部横一線。本田さんはずっと町工場のおやじであり続けた人だと思うんです。

 そして自分の会社の社員に対して「こういうことをやっていこう」と宣言して、そのとおりにやった。非常にシンプルなことなんですが、僕は日本の企業はもう1回、そういったところに立ち返らないといけないと感じています。

 そういう創業の心とか、企業はどうあるべきかといったことを、全社員が理解して、全社員が実行していく。SEDシステムにせよ、プロジェクト制にせよ、全員で知恵を出し合って、全員で経営していくということですよね。

 ドラッカーの場合は、会社や組織、人間とはどういったもので、どうあるべきかといった基本的な部分を全部、経営学という体系にしたんじゃないかと思うんです。だから、たぶん本田さんがやってきたことや考えてきたことと、ドラッカーが考えていたことはあんまり違わないのかもしれません。

岩倉 同感ですね。

柳井 戦後の日本がそうだったように新興国でいま成長している企業も、やっぱり同じような経営をしているんじゃないかと僕は思いますね。日本企業の人はそういったすごくいい先輩がいて、どんなことを述べていたかを思い出さないといけない時期に来ているから、ドラッカーの本も本田さんの本もすごく売れているんだと思います。

 それから、本田さんもドラッカーも、大衆とか現実といったものに関して、すごく理解があったと思うんです。いくら理想を持っていても、そこに対しての理解がないと、理想が理想にはならない。それはもう自分の独り善がりにしかすぎない、といったことを教えてもらった気がしますね。

岩倉 僕も本田さんから、現場・現物・現実の「三現主義」とよく言われました。とにかく、理論だけでは事は運ばないんだと。

 実際に現場で、ちゃんと現実を知った上で、物と格闘しながらやるんだぞ、という教えなんですが、何のためにそうやるのかといえば、そこでつくられたものが、お客様の喜びに繋(つな)がるからなんですよね。でもその喜びがなかなか分からない。だから自分が本当にお客様のつもりになって、お客様の立場で考える。そういう習慣をつけることを教わりました。