柳井正会長兼社長(右)と米デザイナーのアレキサンダー・ワン氏
写真提供:共同通信社

 1984年に「ユニクロ」を立ち上げ、ファーストリテイリングを世界的な企業に育てた柳井正氏。一方、初代シビックはじめ数々のホンダ車をデザインし、本田技研工業の常務を務めた岩倉信弥氏。二人はビジネスにおけるデザインの重要性を追求した点で共通している。本連載では『一生学べる仕事力大全』(致知出版社)に掲載された対談「ドラッカーと本田宗一郎~二人の巨人に学ぶもの~」から内容の一部を抜粋・再編集し、組織と経営の本質に迫る両氏の対話を紹介する。

 第4回は、優れた組織の働き方と従業員の意識、英語公用語化の目的などについて取り上げる。

<連載ラインアップ>
第1回 「世界」を常に意識した本田宗一郎が、部下に繰り返し投げかけた質問とは?
第2回 ユニクロ柳井正氏は、なぜドラッカーを読んでもピンと来なかったのか?
第3回 「企業は誰のものか」の答えとは? 会社の本質を見抜いたドラッカーの名言
■第4回 がむしゃらに働くと、なぜ仕事は面白くなるのか?(本稿)
第5回 ユニクロ柳井正氏が捉えた、本田宗一郎とドラッカーの共通点とは?

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会社は社員が「自営業」をする場所

一生学べる仕事力大全』(致知出版社)

柳井 うちの会社でも同じことが言えますね。僕が考える一番いい会社とは、末端の社員でも自分がトップの経営者だと思っている会社。自分が全部のことを決められるし、この会社を支えている、あるいはコントロールしていると思える社員がたくさんいる会社です。

 それが、大会社になってくると、会社に使われるようになるんですね。自分が会社を使うんじゃなく、会社に使われる。そして自分が下っ端だと思った瞬間にダメになる。

 我々の会社でいえば、部長級や課長級がそうなんですが、自分の立ち位置にとらわれ過ぎ。それぞれの人が自分の立ち位置で物事を考えるから、ごく限られた範囲内でしか物事が見えない。そして全部見えていなくて失敗している。ですから一度、自分もトップの経営者だと思って、上からいまの仕事を見直したら、すごく良くなるように思います。

 結局、サラリーマン意識じゃダメなんですよ。自分は会社という場所に、「自営業」をするために来ている。自分は給料を貰っている立場だとかじゃなしに、自分が会社を食わせてる、というふうに思わないといけないと思います。

岩倉 本田さんも同じ姿勢でしたね。「自分はここからここまでの仕事をすればいい」と考えているサラリーマン根性を持った人間を容赦(ようしゃ)なく叱りました。会社で働いている者は、全員がその商品に対して全責任を持っている。役員も平社員も関係ないと。

 僕が2、30代の頃は会社にいたほうがおもしろいですから、駐車場の車の中で寝て、朝早くにそこから出勤してくるという生活でした。家に帰る時間がもったいなかった(笑)。

柳井 そこまで働いたんですね。

岩倉 それも、僕一人だけじゃなく、何人かの仲間たちがそんなことをしてましたよ。そんなふうに社員に夢を持たせたり、おもしろいなと思える場をつくる、そういうことがマネジメントの基本なんじゃないですかね。きっと柳井さんもいま、同じようなことをしておられると思うんですけど。

柳井 いや、皆、燃えてくれてるのはいいんだけど、疲労困憊(こんぱい)してるんじゃないかな(笑)。でも仕事がおもしろいと思うためには、自分がそこに本当に懸けないと、絶対にそうは思えない。中途半端な気持ちでやっていたら、おもしろくも何ともないですよね。

岩倉 えぇ。やっぱり、夢中になれるっていうことなんでしょう。