写真提供:共同通信社

 1984年に「ユニクロ」を立ち上げ、ファーストリテイリングを世界的な企業に育てた柳井正氏。一方、初代シビックはじめ数々のホンダ車をデザインし、本田技研工業の常務を務めた岩倉信弥氏。二人はビジネスにおけるデザインの重要性を追求した点で共通している。本連載では『一生学べる仕事力大全』(致知出版社)に掲載された対談「ドラッカーと本田宗一郎~二人の巨人に学ぶもの~」から内容の一部を抜粋・再編集し、組織と経営の本質に迫る両氏の対話を紹介する。

 第5回は、岩倉氏のホンダ流大学改革、自分の強みに集中すること、若い世代への期待などについての対話を取り上げる。

<連載ラインアップ>
第1回 「世界」を常に意識した本田宗一郎が、部下に繰り返し投げかけた質問とは?
第2回 ユニクロ柳井正氏は、なぜドラッカーを読んでもピンと来なかったのか? 
第3回 「企業は誰のものか」の答えとは? 会社の本質を見抜いたドラッカーの名言
第4回 がむしゃらに働くと、なぜ仕事は面白くなるのか?
■第5回 ユニクロ柳井正氏が捉えた、本田宗一郎とドラッカーの共通点とは? (本稿)

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ホンダ流大学改革

一生学べる仕事力大全』(致知出版社)

柳井 岩倉さんもホンダを退職後に多摩美大の学校改革をされていますよね。これはどんなきっかけからだったんですか?

岩倉 もともとは、教育なんてものについてはまったくの門外漢だったんですがね(笑)。

 そもそもホンダの役員になると、「燃え尽きろ」と言われます。その取締役を10年近く務めましたから、大学からお誘いをいただいた時も「もう火がつきません」とお断りをしたんです。すると「あなたの卒業した学科は、少子化と就職難の影響で、ひと昔前は40倍あった入学試験の倍率が、半分以下になっています。このままいったら危ないんです」と言われた。

 それは僕のせいではないと思いましたが、「危ない」と聞くと、ムラムラッときましてね(笑)。ホンダに長年いたせいか、危機感に自然と体が反応してしまうんです。

 企業が商品をつくる時は「お客様は誰か」と決めるところからスタートします。大学の人にヒヤリングをしてみると「学生こそが大事なお客様」という答えが大半でした。「では商品は?」と尋ねると「大学のカリキュラムや充実した施設です」と言うんです。

 納得しかねた私は、先生たちを集めた場でこう述べました。「大学にとっての“お客様”とは、卒業生を受け入れてくださる企業や社会、また生徒を送り込んでくださる高校や予備校です。そして大学にとっての“商品”とは、学生たちです」。

 そしたら皆にびっくりされちゃったんですね(笑)。学生が商品とは不遜(ふそん)な言い方だと。最初のうちは全然理解してもらえなかったんですが、お客様には不良品を出さないように、売ってよかった、買ってよかったと喜んでもらわなくてはならない。

 そして「いい材料を仕入れて、付加価値をつけて高く売る」という方針を立てて、学科長に就任した僕自らが予備校回りをし、大学のPRをするところから始めました。講義のカリキュラムも改めるなどさまざまな手を尽くし、「受験者数、または倍率を5年で倍増する」という目標を計画どおりに完遂することができたんです。

柳井 ホンダで学ばれたことが、そのまま生かされたわけですね。