「ユニクロが1999年以来の『フリースブーム』で売上を倍々と伸ばす中、同時に社会貢献活動を立ち上げていたことを知る人は少ない」──。こう語るのは、フリースブーム直前にファーストリテイリングに入社し、ユニクロの初代PRマネージャーとしてブランディングとPRを担当してきた北沢みさ氏(MKCommerce&Communication代表)だ。
ユニクロの成功の理由として、優れた製品、マーケティング、店舗運営を挙げる人は多いが、本当の理由は「社会に良いことをする」という、経営の志にあったのではないかと北沢氏は指摘する。だとすればその志は具体的にはどう実践されたのか、なぜ成長につながったのか。2024年6月に著書『社会に良いことをする ユニクロ柳井正に学ぶサステナビリティ』(プレジデント社)を出版した北沢氏に話を聞いた。(前編/全2回)
■【前編】「難民は地球規模の人的リソースの損失」初代PRマネージャーが語る、なぜユニクロはサステナビリティーに真剣なのか(今回)
■【後編】「小売りと社会貢献の現場は似ている」ユニクロの初代PRマネージャーが語る、三現主義の価値
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ここまで本気でやっているけれど、世の中に伝わっていない
――「ユニクロ」は今では日本人で知らない人はいない、絶大な信頼があるブランドですし、柳井正氏(ファーストリテイリング代表取締役会長兼社長、以下社長)は日本を代表する経営者としてメディアに登場する機会も多く、何冊も本が出ています。しかし、この『社会に良いことをする』を読むまで、ユニクロという企業がここまで徹底的に社会貢献を果たそうと努力しているとは、全く知りませんでした。もしかしたら、あえてアピールを控えているのでしょうか。
北沢みさ氏(以下敬称略)いえ、控えているわけではないと思います。自分が広報をしていた頃もそうですし、今も広報活動は一生懸命にやっていると思います。でも、ユニクロの社会貢献活動については、世の中になかなか伝わっていかない。
私がこの本を書いた直接のきっかけもそれなのです。自分は20年近くユニクロにいたので、こういうことをやっていると知っていたけれども、今おっしゃったように世の中には全然知られていません。それがとてももったいないなという気持ちがありました。
世の中、と言いましたが、それ以前にユニクロの社員も、「自分の会社がここまでやっている」ということを、あまり知らないと思います。
同時に今、自分がコンサルタントとして色々な企業の支援をしている中で、サステナビリティー活動に対して何をどうやったらいいのかと悩んでいる企業や経営者の方が多いことにも気付きました。そこで、ユニクロのやっていることを改めてまとめて世の中に出してみようと考えたわけです。
製品のことは理解しやすいですし、言いやすいし、伝えやすい。そして世の中の興味もそちらにありますから、「こういう商品を出しています。こんな機能があって、いくらで売っています」という話は比較的容易に受け入れてくれます。
一方、日本の社会全般に流れているメンタリティーというか、「良いこと」をアピールする姿勢はあまり好感を持たれない。企業規模が大きくなればなるほど、有名になればなるほど、世の中に「良いこと」をしていると伝えるのが難しくなるように思います。
でも、それを承知でこの本を書きました。一番の理由は、「ユニクロは安い服を大量に販売して利益を上げて、経営に余裕があるから、こういう活動をしているんだろう」といった印象を払拭したかったからです。
お金をもうけて余裕ができたから社会に良いことをする。ではなくて、最初から「社会に良い事業をしよう」と柳井社長が考えて、そこから始まっている。それこそが企業の成長にとって最も重要で、世の中に伝わってほしいことなのに、真逆の印象になってしまっている。これをなんとかしたいと思いまして。(動機と結果が)全く逆に伝わっているわけです。
この本では、柳井社長やクリエイティブディレクターの佐藤可士和さんにもお話を聞いていますが、その他に社内外の関係者30人ほどにインタビューしています。
読んでいただくとお分かりになると思うのですが、「社会に良いことをする」という経営者の考え方が、ユニクロ社内にものすごく浸透しているんですよ。社長に言われたからやっている、今期の査定に入るからやっている、ということはではなくて、本当に「社会に良いことをする」という目的に共感した社員たちが、自分の仕事を通してそれを実現しようとしています。
さらには取引先ですとか、協力会社の方でこの考えに共感している皆さんが、ユニクロの事業を一緒にやることを通して、同じ目線で動いてくださっています。「やるべきだ」と思うから、目先の損得抜きで動く人の輪が広がっている。こういう事実を伝えたいのです。