米国ニューヨーク・マンハッタン1号店のユニクロSOHOニューヨーク店。近隣生活者とのコミュニティ作りにも力を入れている

 「ユニクロ」を国内で800店、海外ではその2倍以上の1694店(2024年2月末)を展開するグローバル企業となったファーストリテイリング。売上高は、「ZARA」を擁するインディテックス、「H&M」を擁するH&Mヘネス&マウリッツに続く世界第3位、今や3兆円達成、2位浮上も目前に迫っている。ファーストリテイリングはさらなる成長に向けてどのような戦略を立てているのか。同社の現在地と最新戦略を解説する。

 ファーストリテイリングが、理念でありコンセプトとして掲げているのが「LifeWear(ライフウエア)」。「あらゆる人の生活をより豊かにするための“究極の普段着”」を世界中の人に届けようというものだ。

 ブランドとしての知名度が世界に広がっているが、選ばれ、さらには愛されるブランドになるためには、世界中の人々のLifeWearへの理解を深化させるとともに、LifeWear自体も改善し進化させる必要がある。

 そのために、ファーストリテイリングは長年取り組んできた「グローバルワン・全員経営」と「グローバルとローカルの両立経営」の徹底を図っている。特に「グローバルで事業をリードできる経営人材の育成」と「全社員が同社のビジョンや方向性を正しく理解できるようにすること」に注力。「グローバルな視点で最善を考えて行動しつつ、その地域のニーズに見合った商品やサービスを創り出す」二律背反を同時に実現させようとしている。

 以下では、グローバル展開を中心とするファーストリテイリングの最新戦略、今後の方針と計画などを見ていく。

〈戦略〉情報製造小売業でサプライチェーンも進化させる

 ファーストリテイリングが「LifeWearの深化と進化」を実現させるための事業モデルが「情報製造小売業」。これは素材調達から企画、生産、販売を一気通貫したSPA(製造小売業)に「情報」を加えて進化させたものだ。

 リアル店舗に加えて、デジタルのタッチポイント(スマートフォンのアプリやWeb、SNSなど)を拡大する企業やブランドは増えている。中でも同社では「お客とダイレクトにつながり、情報の発信だけでなく、ニーズや不満などお客の声を集め、それを商品の企画や改良、サービスの改善などに生かすこと」、そして「世界中の街やインターネット上などに存在する情報も収集し、分析し、活用すること」を、ビジネスサイクルに明確に組み込んでいる。

 さらに、商品を機能やスタイリングなどの情報とともに販売することで、人々の購買欲求を刺激する。つまり、「情報」を起点に企画・生産・販売を行う「情報駆動型ビジネスモデル」を追求しているのだ。

中間期として過去最高業績になった2024年8月期上期の決算発表で記者会見するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長。写真提供:共同通信社

 同時に、サプライチェーンも進化させている。ファーストリテイリングでは本社だけでなく、世界中の全店舗や工場を含めたサプライチェーン全体をリアルタイムにつなげて刻々と変わる膨大なデータや情報を集約。これはサプライチェーン全体が連動するように「意思決定、実行、徹底」できるようにするためだ。

 これには2つの目的がある。1つは「お客が欲しい時に欲しいものが欲しい場所で手に入るようにするため」。もう1つが「ファーストリテイリングが必要な分だけ商品を作り・運び・販売することで、高品質・リーズナブル価格・高収益・サステナブルを実現するため」だ。

 ファーストリテイリングは2021年には情報製造小売業を発展させ、循環型で、サステナブルな、他のどこにもない「新しい産業」を創ることを宣言している。