2024年2月期決算で営業利益112億円(前期比約2.2倍)と、2008年度以降で最高益を記録したアパレル大手のオンワードホールディングス。好収益に大きく貢献しているのが、グループの中核会社オンワード樫山が立ち上げた「アンフィーロ(UNFILO)」だ。アンフィーロは他のブランドとどう違うのか。運営にはどのような工夫があるのか。成功の秘訣について責任者のオンワード樫山・山本洋輔氏に取材した。
ファストファッションとラグジュアリーの間で勝負
2021年9月にスタートした「アンフィーロ」は、2024年2月期決算で前期比1.9倍を達成。オンワードホールディングスの保元道宣社長も大きな期待を寄せる。
アンフィーロは「動くすべての人に機能美を。」をブランドパーパスとし、中心価格8,000円前後でパンツを軸として中軽衣料を中心にシーズンおよそ120アイテム展開する、ファストファッションとラグジュアリーブランドの中間に位置するブランドだ。
山本氏は、アンフィーロの特徴を「ファッション性と機能性の両方を兼ね備えた洋服です」と説明する。
アパレル業界のトレンドとしてラグジュアリーブランドとファストファッションの二極化という現象がよく語られる。だが、山本氏によると、実は両者の中間に多様なニーズが存在する。コロナ禍によって生活スタイルが一変したことで、「家でも職場でもプライベートの外出先でも快適に着用できて、きちんと見える服が欲しい、美しく見える服が欲しいというニーズが顕著になっている」(山本氏)のだ。
機能性とファッション性に優れたアンフィーロの商品は、そうしたニーズに応えられているという。1週間に複数回着用シーンがある着回しの良いアンフィーロの8000円のシャツは、1年に1回しか着ない「ハレの日」向けの3万円のシャツやすぐにヨレてしまう3000円のシャツを買うよりも総合的な顧客満足度が高いというわけだ。
中でもヒット商品は、販売開始から2年で累計8万本以上売れている「最愛ジョグパン」。商標登録した「BEAUTY MOVE」という、シワになりにくく、伸縮性に優れた動きやすい素材が特徴で、オフィスや在宅勤務、外出先など様々なシーンで着用されている。
「カスタマーレビューを軸にした商品開発・販促」に挑戦
アンフィーロは現在こそ同社のOMO型店舗「オンワード・クローゼットセレクト」にも出店し、売り上げに占めるEC比率45%程度だが、ローンチ当初はオンワード公式ECサイトの「ONWARD CROSSET」のみで販売するDtoC(Direct to Consumer)ブランドだった。
なぜ、DtoCブランドとして出発したのか。山本氏は次のように語る。「コロナ禍でECでの買い物が急拡大し、今後もその大きな流れは止まらないと見ていました。会社としてECの利用率を高めると同時に、ECブランドでしか実現できない“カスタマーレビューを軸にした商品開発・販促”に取り組みたかったのです」
山本氏は、入社以来オンワード樫山の様々な百貨店・ショッピングセンター(SC)に入居するブランドを手掛けてきた。だが、2010年以降、ECの拡大とユニクロやしまむらに代表されるファストファッションの台頭により、中間価格帯で勝負する百貨店・SCブランドは既存店売上高を維持することが困難になっていった。
「店舗への出店を前提として新ブランドを始める場合には、初期投資として賃料や人件費など固定費がかかりますし、在庫も多く抱える必要があります。ブランドが当たれば初期投資を回収できますが、損益分岐点を超えるのは多店舗展開の成功まで待つ必要があります。これだけお客様の趣味趣向が多様化している中で、多店舗展開を前提とした新ブランドの展開は参入障壁が高いといえます」
「それに比べると、ECから販売を始めれば少なくともかなりの部分、初期投資を抑えられます。さらに、ECに寄せられるレビューとアイテムごとのPV、コンバージョンレート(CVR、成約率)を精査すれば、リアル店舗での販売よりはるかに早くヒット商品を作ることができると考えました」(山本氏)
ではアンフィーロは現実にお客と接することなしに、いかにして売り上げを拡大させていったのか。