オンワード樫山 OMO Div.長の前川 真哉氏(撮影:宮崎訓幸)

 百貨店・ショッピングセンターでの販売不振や少子高齢化に伴う国内市場の縮小と、厳しい逆風が吹くアパレル業界。コロナ禍でリアル店舗の売上が激減したことにより、ブランドの廃止に追い込まれた企業も少なくない。そんな中、30~50代の婦人の根強い支持を受けるオンワード樫山は、リアル店舗とECサイト双方の「良いとこ取り」をした新業態店舗「ONWARD CROSSET STORE/SELECT」を2021年4月にオープンした。売り上げは順調に拡大し、現在は全国に約80店舗を展開する。同業態の責任者である、オンワード樫山 OMO Div.長の前川真哉氏に話を聞いた。

きっかけはコロナ禍、好調だったECの「良いとこ」をリアル店舗に導入

――ONWARD CROSSET STORE/SELECTはリアル店舗とECサイト、双方の「良いとこ取り」をした店舗だと聞きました。どんな業態の店舗なのでしょう?

前川 真哉/オンワード樫山 OMO Div.長

2006年オンワード樫山入社。入社より14年間、『23区』を中心としたレディースブランドの営業担当を務め、100以上の店舗を運営するチームのリーダーとして活躍。お客さまと距離が近い現場で長年培った経験を基に、2020年に新規事業であるOMOストア事業の課長に大抜擢。デジタル化が進み、消費の選択肢が広がる中で、多様化するお客さまに楽しんでいただける店舗づくり・仕組みづくりに尽力している。

前川真哉氏(以下敬称略) リアル店舗とECサイト、それぞれの良さって何だと思いますか?

 リアル店舗には「自分の目で商品を確かめられる」「試着できる」という良さがあります。ECサイトには、「在庫が残っている全ての商品から、欲しいものを選択できる」「商品を家まで持ち帰らなくて良い」という利点があります。

 ONWARD CROSSET STORE/SELECTは、こうしたリアル店舗とECサイトの「良いとこ」を組み合わせた店舗です。

ONWARD CROSSET SELECT イオンモール倉敷店

 具体的に取り入れたのは「クリック&トライ」というサービス。公式ECサイトの「ONWARD CROSSET」上にある「23区」や「自由区」、「ICB」など当社が展開するほぼ全てのブランドから気になる商品を選択し、お好みの店舗で「無料」で試着できるサービスです。 

 首都圏の店舗では最短2日、北海道・沖縄でも最短3日待てば試着することができます。クリック&トライは好調で、試着をした人の約50%が購入まで至っています。

 例えば、ジャケットを例に出すと、これまでは実店舗で数点の商品の中から買わなければならなかったのが、クリック&トライを利用することで、数十倍の商品ラインアップの中から選べるようになりました。

 他にも、オンライン上でスタッフを指名して、店舗で接客を受ける「パーソナルスタイリング」など、オンラインとオフラインを融合させたサービスを展開しています。

 2021年に首都圏と名古屋のショッピングセンターで新業態を展開して以来、この業態の店舗の売上は好調で、現在ONWARD CROSSET STORE/SELECTという屋号のショップは全国で約80店舗を運営するに至っています。また、クリック&トライを導入している360店舗の売上高に関しても、2019年度のリアル店舗の平均売上高を上回っていて、お客様の支持をいただいていることを実感しますね。

――ONWARD CROSSET STORE/SELECTをオープンしたきっかけは?

前川 「リアル店舗に何か新しい機能を付加させなきゃまずい」という危機感があったのが正直なところです。コロナ禍の中、緊急事態宣言の発令などによって営業が規制された影響で、明らかにお客様の足が遠のいていました。

 そんな中、好調だったのが公式ECサイトの「ONWARD CROSSET」です。2020年度はEC売上対前年比26%増を記録するなど、ECが事業の成長ドライバーとなっていました。

 先ほど説明した通り、ECの利点は「店舗より多くのラインアップから商品を選べる」点にあります。元々、オンワード樫山のリアル店舗、特に百貨店の店舗では「1ブランド、1店舗」が基本でした。つまり、「23区」なら「23区」の商品しか実店舗では買えなかったのです。一方で、ECでは当社が展開する全てのブランドが選び放題で、お客様からも「選択肢が増えて嬉しい」という反応がありました。

 そこで、リアル店舗に好調だったECの「商品を選び放題」という要素を組み合わせられないか、と考え「クリック&トライ」をスタートさせたのです。