1993年、まだ黎明期の頃のユニクロ(ファーストリテイリング)に入社。 グローバル企業になるまでの24年間にわたり、業務改革とシステム化を推進し、日本初SPAのビジネスモデルのシステム、EC立ち上げやグローバル経営を行うための仕組みを構築した。その後、RIZAPグループの役員を経て、2019年に情報テクノロジーを企業経営に生かすことを事業目的にISENSEを起業。これまでCIO of The Year 2007 特別賞やIT Japan Award 2018 を受賞し、経済産業省IT経営協議会委員も務めてきた。現在はDX推進にとどまらず、数社の取締役や経営アドバイザー、基幹系プロジェクトの立て直しなど幅広く支援中。

 山口県宇部市の商店街の一角にあった地方専門店は今や世界25カ国・地域に店舗を構え、売上高2兆円を超える巨大チェーンに変貌した。その成長過程に約24年間にわたって当事者として関わり、システム面を中心に実務を支えてきた男がいる。現在はITコンサルタント会社であるISENSEの社長で、元ファーストリテイリングのCIO(最高情報責任者)だった岡田章二氏に、ユニクロの成長過程における変革への取り組みを中心に聞いた。

<編集部からのお知らせ>
本記事でインタビューした岡田章二氏も登壇するオンラインイベント「第9回 リテールDXフォーラム」を、2022年9月26日(月)に開催します!
▶イベントの詳細や参加登録(無料)はこちら

岡田章二氏による「会社を躍進させる仕組み」と題した講演のほか、西友の大久保社長が語る「西友の改革とOMO戦略」、ビックカメラの「DX宣言」、ベイシアグループの「ハリネズミ経営とDX」、エイチ・ツー・オー リテイリングの「グループ経営基盤のデジタル化」、スーパーサンシの「ネットスーパー成功の方程式」など、小売業のDX・OMO・オムニチャネル戦略の最前線を学べるオンラインセミナー「第9回 リテールDXフォーラム」(参加登録受付中)

入社時は新システムの導入で現場が大混乱

――岡田さんの経歴は。

岡田 当初はシステムエンジニアとして花王九州工場(当時)の担当をしていましたが、システムとビジネスの両方を知らなければ何も変えることはできないと思い、事業会社に転職しました。小さい会社なら権限や活躍の場が大きいと考え、1993年にファーストリテイリングに入社しました。50歳を過ぎて経営をやりたいと思い、2016年にRIZAPグループに入社。事業再生やグループの戦略立案に関わりました。

――入社当時のユニクロの状況は。

岡田 当時は山口県宇部市に本社があり、年商250億円、73店を展開するローカルチェーンでした。システム関連雑誌の求人広告を見て電話したら「会社が大変なのですぐ来て」と言われ、行ってみたら新システムを導入し、現場は大混乱していました。最初は営業部営業課という部長と僕の2人だけの部署に配属。ユニクロが急成長のギアに入った時期で、業務とシステムが全くフィットしていなかった。「システムが悪いので直してくれ」と言われたのですが、業務の標準化ができていないと考え、店舗運営やシステムなど業務のマニュアルを作成しました。するとクレームがやみ、システムが崩壊するのを免れることができました。

多店舗化、SPA化、グローバル化の3つの局面

――ユニクロが地方専門店からグローバルSPA(製造小売業)へと成長し、飛躍する過程で幾つかの壁を乗り越えてきた。それはどんな局面でしたか。

岡田 変革の局面は大きく3つの段階でありました。①国内チェーンとしての成長、②SPA化、③グローバル化―です。

――90年代後半の国内チェーンとして多店舗化する段階で手掛けたことは。

岡田 前述のようにまずは業務の標準化をしました。また、多店舗化すると、仕入れた商品を店舗に分配したときに在庫の偏りが発生するので、在庫コントローラーの販売予測に基づいて商品投入をするようにしました。店長が作業をベースに曜日ごとに人を割り当てる計画を立てると、お客さまが多い土日に売場に人員が少ないことも発生するので、自動的にワークスケジュールが計算できる仕組みをつくり、人時生産性を高めました。

 基幹システムはNECのメインフレーム(大型汎用機)で在庫管理も給与計算も会計もしていましたが、急成長に追い付けないのが予測できたので、システムを分離して、クライアントサーバ型の人事給与パッケージ、会計パッケージを導入し、メインの商品管理システムは作り直しました。また、スケーラビリティ(拡張性)を維持するために、汎用機を捨て、UNIXなど新しいオープンな技術に基づいて作り直しました。脱メインフレームへの対応はかなり早かったと思います。

――そして98年の東京・原宿店の出店を境に、ユニクロは大きくSPA化にかじを切ります。

岡田 SPAを目指すと言っても当時はサプライチェーン(供給網)の絵がありませんでした。仕入れた商品を売るシステムはありましたが、その中で予算計画、商品の企画、マーケティング計画、販売計画を立案し、それを基に生産計画をつくり、生産発注、素材の調達をするというプロセスがまだ出来上がっていなかった。それを現場と検討しながら仕組みをつくっていきました。

 併せて数字であらゆることを判断するようにしました。発注数、生産数を決めるときに過去の販売実績から販売計画を立案し、生産数を決めていくというサイクルをつくりました。今では当たり前ですが、実は今でもできていない会社が多いと思います。

 その結果、アパレル企業としては日本で初めてサプライチェーンマネジメント(SCM)のシステムが出来上がったのです。

――01年に英国・ロンドンに進出し、02年には中国・上海に出店、海外展開が始まりました。

岡田 当時の日本企業には海外情報は少なく、当初は富士通ヨーロッパのSAPのシステムを導入し、トライアル的に立ち上げました。

 当時の私は海外知見も有しておらず現地任せとなってしまい、結果として現場の評判はあまり良くありませんでした。

 現地の経営陣と議論する中で、早く共通のシステムを作らなければと思うようになりました。

 その後、中国からは、大型チェーン店を運営できるERP(統合基幹業務システム)がなかったので、米国・リテック(後にオラクルが買収)に日本に進出してもらい、それをベースにユニクロのモデルをつくりました。

現状を否定し「変わらなければ」という強い危機感

――一般の小売業がユニクロの経営変革に学ぶことはありますか。

岡田 ユニクロは現状否定が最もできる会社だと思います。「改革」とは現状を肯定しながらも大きく変えていくことですが、「変革」は現状否定から入ります。危機感がすごい。「変わらなければ死んでしまう」と真面目に思っている。他の会社はまねできないでしょうね。

――小売業が解決しなければならない課題は何でしょうか。

岡田 まずは現場を診断すること、本音の情報や問題をいかに抽出するかが重要だと思っています。共通する問題点は本部がお偉いさんになっていること。分業化が進み、全員が数字を把握していないことですね。

何のために取り組むのか、どのKPIを変えるのか

――小売業がDX(デジタルトランスフォーメーション)を成功させる上で注意すべき点は。

岡田 どのKPI(重要業績評価指標)を変えようとしているのかを明確にすることです。経営課題として何が問題で、何のために取り組むのかという目的にコンセンサス(合意形成)がないといけない。

 例えば、ユニクロのセルフレジはRFID(無線自動識別)を活用し、膨大な投資がかかります。今、スタッフの採用は難しいので、店頭の作業効率を高め、少人数で運営できるようにしないといけない。また、レジ待ちの行列ができると機会ロスにつながる。そういう何を達成したいのかを明確に決めることが重要だと思います。

 また、最近はアプリやデジタルマーケティングツールがあるので、お客さまとどうつながっていくのかを考えなければなりません。これまでは1店当たりの売り上げとか今日の売り上げというグロスの数字を見ていました。デジタル技術の進歩でお客さま一人一人の数値が見られるようになり、お客さまごとの売り上げがどう変化し、離脱したお客さまはどういう状況なのか、1人のお客さまが複数の店舗で買う、ネットだけで買う、ネットと店舗を使い分けるということも分かります。

 従来の小売業はマスビジネスの要素が強かったと思いますが、オーダーメードに近いカスタマーセントリック(顧客中心主義)な対応ができる時代になりました。デジタルを使うとお客さまを識別でき、好みも分かる。すると広告の打ち方も変わる。そういった数字の見方、マーケティングの方法、お客さまへのリーチの仕方が変わっていくので、ぼろぼろぼろと変えていくことが重要かなと思います。

――リテールDXフォーラムで講演されます。

岡田 皆さんDXと言いますが、重要なのは変革、改革をするということ。その手段としてデジタルでできることが広がってきたので、改革レベルも高めなくてはいけないと思います。DX、改革の取り組みは経営幹部の仕事であり、日常の仕事です。そういうマインドを持つことが大切です。講演ではそんな話を含めて会社を躍進させる仕組みについてお話ししようと思います。

 9月26日に開催される「第9回 リテールDXフォーラム」の岡田章二氏の基調講演「会社を躍進させる仕組み~デジタルはあとづけで~」では、新型コロナウイルスのまん延によって市場が大きく変化した小売業界において多くの企業が抱えている課題と求められるDX推進にどう対応していくのかを、企業文化の在り方から組織構造、変革へのアプローチまで幅広く解説してくれる。

 「第9回 リテールDXフォーラム」ではこの他、西友の大久保恒夫社長、ベイシアグループ総研の樋口正也執行役員 IT統括本部長、ビックカメラの野原昌崇執行役員 デジタル戦略部長、エイチ・ツー・オー リテイリングの小山徹執行役員 IT・デジタル推進室長の講演なども予定されている。

 イベントの詳細や申し込みはこちらから。