ここ10年、小売業は生産性に課題を持ち続けてきた。店舗数の増加による成長はもはや通用せず、新たな戦略が必要になっている。そこで、コンサルタントとして小売業の情報システム構築や経営を指導してきた吉田繁治氏は、デジタル化による生産性改革の必要性を強調する。商品構成、調達、商品開発、物流、店舗のどこから取り掛かるべきか。
※本コンテンツは、2021年11月17日に開催されたJBpress主催「第6回 リテールDXフォーラム」の特別講演Ⅳ「2021年からの小売業に必要なデジタル・トランスフォーメーション」の内容を採録したものです。
店舗増による成長戦略ではこれからの10年を生き残れない
下の図の数値は、日本チェーンストア協会に所属する2011年の60社、2020年の56社の合計値および平均値だ。2011年は8086店だった店舗数は、2021年には1万1799店まで増加した。店舗の増加率は46%に上り、売り場面積は33%増、従業員は18%増、労働時間の構成比は4%増で推移している。一見成長しているように見えるが、売り上げの推移はわずか4%増と、設備と人的生産性の問題が大きくなっている。
売り場の1坪当たりの売り上げは22%減少(設備生産性の低下)。さらに従業員1人当たりの売り上げは12%減(人的生産性の低下)。これを2021年の基準でいえば、従業員1人当たりの売り上げの目標値は5300万円であるのに対して、2500万円にとどまっている。1人が1時間働く際の生産性を示す人時生産性は、粗利益率を25%と仮定すると、12%減であり、2021年の基準値の半分程度と低い。
「1人当たりの可能報酬は、労働分配率45%を上限として計算すると282万円でしかない。役員からパートタイムまで全てを含めた平均値だが、月収に直すと23万円と貧困クラスになる。日本チェーンストア協会の平均は、比較的業績のいいイオンやニトリも含めての数字のため、多くの企業はさらに低い水準にあるのが実情だ。家業の小売業を近代化し、システム化して生産性を上げる仕組みだった『チェーンストア』が日本では機能していない。1990年から30年間も、チェーンストアの生産性は伸びていず、むしろ減ってきた」
こう指摘するのは、小売業のコンサルティングを行う吉田繁治氏。同氏はさらに、チェーンストアは「店舗寿命」を意識する必要があると続ける。
「鉄骨建ての店舗の法定耐用年数39年と、老朽化、および競争環境の変化を加味すると、店舗寿命は25年と見るべきです。既存店売上高はマイナスなので、チェーンストアが、会社として現状の売り上げを維持する出店には、毎年4%の新規出店が必要です。さらに売り上げを増やそうとすれば、毎年10%以上の新規出店が求められます。今年、アパレルで売上高世界3位になったファーストリテイリング(ユニクロなどを展開)の新規出店率が15%であることを考えれば、困難であることがよく分かるでしょう」
その上、小売業への逆風になるのが2020年代の地価の下落だ。土地を担保にした資金調達は望めなくなり、投資額に対するキャッシュフローの確保はより難しくなる。「生産性改革を行わないままでは、日本の大手も中小も、小売業は10年と生き残れない」と吉田氏は強調する。