今から60年以上前、「AIによる自動運転」の仕組みを予言し、未来を正確に言い当てた人物がいる。ソニー創業者の井深大(いぶか・まさる)氏だ。井深氏はなぜ、テクノロジーがもたらす革新を見通すことができたのか。そして、その偉人から私たちは何を学ぶべきなのか。2023年12月、書籍『ソニ-AI技術 井深大とホンダジェット 本田宗一郎の遺訓』(ごま書房新社)を出版した豊島文雄氏に、テクノロジーで世界を変えた名経営者から現代のリーダーが学ぶべきことを聞いた。
■【前編】創業者・井深大が語っていた驚きの予言 ソニーの「未来を描く力」の源泉とは(今回)
■【後編】意気投合した井深大と本田宗一郎、ソニー・ホンダ「アフィーラ」誕生の必然
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60年前にAI社会の到来を見抜いた「井深氏の慧眼」
──著書『ソニーAI技術 井深大とホンダジェット 本田宗一郎の遺訓』は、今から六十数年前にソニー創業者の井深氏が語った「エレクトロニクスの夢」という肉声の講演テープが発見され、それが現代のAI研究者やエンジニアに衝撃を与えた、というエピソードから始まっています。井深氏はそこで何を語り、現代のAI研究者や起業家にどのような衝撃を与えたのでしょうか。
豊島文雄氏(以下敬称略) 発見されたテープは、1961年7月に国際基督教大学(ICU)で「エレクトロニクスの夢」と題された講演の記録です。当時は、白黒テレビ、洗濯機、冷蔵庫が「三種の神器」と呼ばれていた時代です。そこで井深氏は、当時、まだコンピュータが「電子計算機」と呼ばれていた時代に、21世紀のAIによるパラダイムシフトを次のように洞察しています。
「これからの自動車は、ステアリングやブレーキをエレクトロニクスでやれるようになる。前の車との間もレーダーのようなもので距離を測って、速度の調整を自動的にやれるようになる」「医療でも経営でも教育でも良いデータばかりを蓄積して、そのデータの中から正しいものを選び出して次の推理をしていくということは、電子頭脳の非常に得意なところだ」
2023年4月に公開された週刊文春の記事によると、講演内容の文字起こしを読んだAI研究の第一人者、東京大学大学院の松尾豊教授は「すごいの一言ですね。まさに未来を正確に読んでいる。今の人工知能の状況が、ほとんどそのまま当てはまる気がします。すごい、すごいと聞いたことはありましたが、こんなすごい方だったんだと衝撃を受けました」と語っています。
この講演から六十数年後の2020年4月、ソニーはAIやロボットの基礎的な研究開発を行う「ソニーAI」を設立しています。また、2022年9月には、井深氏の盟友であった本田宗一郎氏が創業したホンダとの間で、合弁会社「ソニー・ホンダモビリティ」が設立されています。同社は次世代自動運転EVを開発し2025年に販売することを目指しています。まさに井深氏が予言した未来が現実になろうとしているのです。
井深氏の講演から60年後に起こった動きは、決して偶然ではないでしょう。なぜなら、ソニーAIには井深氏の経営思想や人生哲学が「タテ糸」として脈々と流れているからです。2020年4月に設立されたソニーAIは、ソニーのファウンダーである井深氏のスピリットを継承したものであると、ソニーコーポレートブログ「現在、そして未来に受け継がれるソニースピリット」に記載されています。