写真提供:共同通信社

『マネジメント』(ダイヤモンド社)をはじめ、2005年に亡くなるまでに、39冊に及ぶ本を著し、多くの日本の経営者に影響を与えた経営学の巨人ドラッカー。本連載ではドラッカー学会共同代表の井坂康志氏が、変化の早い時代にこそ大切にしたいドラッカーが説いた「不易」の思考を、将来の「イノベーション」につなげる視点で解説する。

 連載第3回は、「予期せぬ成功」をつかみ、イノベーションにつなげるヒントを紹介する。

本稿は「Japan Innovation Review」が過去に掲載した人気記事の再配信です。(初出:2024年10月9日)※内容は掲載当時のもの

イノベーションを起こすための魔法のような方法

 こんな無体な要求が上から降りてきたことはないだろうか──。

「リスクがなく、コストもかからず、しかも短期間でイノベーションを達成してほしい」と。

 どこにそんな都合のいいイノベーションがあるだろうか。もし、そんな魔法のような方法があれば教えてほしいものだ。だが、実はあるのだ。ドラッカーが教えてくれている「予期せぬ成功」(the unexpected results)がその答えである。

 彼は、「イノベーションは常に誰にでも起こせる」という確信の持ち主である。運のいい人、優秀な人、目端の利く人だけが起こせるというものではない。イノベーションとは、そんなばくちみたいなものではないというのが彼の考えだ。

 では、「予期せぬ成功」をつかむにはどうすればよいか。第一に大切なのは、unexpected、すなわち「予期していなかったこと」「期待していなかったこと」を徹底的に探すことである。思いもよらない形で成功がもたらされたことはなかったか。あたかも、ボールが自らグローブに飛び込んでくるみたいに。

「そんなことがあるのか」と思うかもしれない。だが、実はこれがしょっちゅう起こっている。むしろビジネスの現場では、計画通りに進むことの方が珍しい。クライアントは常に予想外の反応を示す。満を持して投入した製品が空振りすることもあるし、誰も見向きもしなかった製品が、なぜか特定地域でヒットすることもある。

 そんな「謎」を探せとドラッカーは言う。それこそが追求すべき機会であり、イノベーションの種なのだと。