戦略提携の検討に向けた覚書締結について、記者会見する日産自動車の内田誠社長(左)とホンダの三部敏宏社長 写真提供: 共同通信社

 15年後に生き残れるのは、どのような自動車メーカーなのか? 脱炭素化、AI普及など、世界が「ニューノーマル」(新常態)に突入し、ガソリンエンジン車主体の安定した収益構造を維持できなくなった企業が考えるべき新たな戦略とは? シティグループ証券などで自動車産業のアナリストを長年務めてきた松島憲之氏が、産業構造の大転換、そして日本と世界の自動車メーカーの、生き残りをかけた最新のビジネスモデルや技術戦略を解説する。

 第3回は、日産とホンダの戦略的提携の背景、提携によって生まれる業界の2大グループの構図、そしてその先にある部品メーカー再編を見通す。 

日産とホンダの提携における最大の課題とは?

 3月15日に日産自動車(日産)と本田技研工業(ホンダ)が、EVなどの分野で戦略的提携の検討を始める覚書を結んだと発表した。両社は車載ソフト分野での協力と、EV基幹部品の共通化や共同調達を想定しており、EV開発やEV生産におけるコスト削減を進めて競争力を強化するのが目的だ。発表当日の記者会見でホンダの三部敏宏社長は「自動車業界に急激な変化が起こっており従来の枠組みでは戦えない」と述べ、日産の内田誠社長は「技術開発を全て自社でやるのは難しい状況だ」と語った。

 ホンダは2030年までにバッテリーEV(BEV:電気のみをエネルギー源として走行する車)を年間200万台、2040年には全車をBEVと燃料電池車にするという野心的な計画を発表しているが、2023年10月にGMとのBEV共同開発の中止が明らかになり、計画達成は困難となった。この時点で、ホンダ単独での生き残りは難しく、新たな提携先を探す必要があると経営陣は判断したはずだ。

 日産はルノーとの資本提携関係の見直しを2023年11月に発表、ルノーの日産への出資比率を43%から15%まで下げ、両社が相互に15%出資する形にすることで、日産とルノーとの関係は対等になった。日産の経営危機の時に結ばれた不平等条約がようやく改正されたのである。

 これと同時に日産は、ルノーが設立予定のEV新会社「アンペア」への出資を目指すと発表した。しかしながら、「アンペア」の上場計画が延期され、このプロジェクトにも暗雲が垂れ込めている。

 元々、ルノーよりも圧倒的に優れた日産のEV関連特許を中心とする知的財産を、アンペアでどう利用するかについて協議を続けていたが、これでは駄目だと日産の経営陣は判断したのだろう。

 このような背景があり、ホンダと日産はEV開発での提携に至ったと想像できるが、両社はともに独自の技術開発に強みを持つ企業であり、開発思想の融和が最大の課題となる。

 ホンダとGMとの共同開発中止の原因は、クルマづくりの思想の違いで、両社の開発陣の歩み寄りがなかったからではないかと推測する。ホンダと日産が同じような状況にならないように、両社の経営者がしっかりと共同開発における話し合いの進行を把握して適切にマネジメントする必要がある。

 しかしながら、今回は両社が資本提携にまで踏み込んではいない。不退転の決意で臨むのであれば、資本提携を実行するのが常道で、これが資本市場へも強いメッセージの発信となる。
 
 3月18日の両社の株価は、ホンダ1830.5円(先週末比2.7%増)、日産605.3円(同4.1%増)と若干上昇、株式市場は両者の提携をひとまずポジティブに解釈したようだが、日経平均株価が2.6%増だったので大した上昇ではなかった。

 両社の株価上昇がサプライズを伴いストップ高になるような上昇ではなかったのは、株式市場がこの提携の成功に対して疑問を抱いているからだろう。両社のPBRはホンダ0.74倍、日産0.41倍と自動車業界の中でも低く、PBR1倍割れ解消にはこの提携の成功が絶対条件になるだろう。