米中のハイテク企業が世界のイノベーションをけん引する一方、日本は大きく後れを取っているといわれる。しかし、いくつもの新規事業を生み出し、イノベーション創出と企業カルチャーの変革を成し遂げようとしている大企業もある。その1社が日本電気(NEC)だ。2023年11月、書籍『大企業イノベーション 新規事業を成功に導く4つの鍵』(幻冬舎)を上梓したNEC Corporate SVPの北瀬聖光氏は、同社で新規事業を次々と創出し、世界初・日本初の最先端事業を数多く生み出してきた立役者である。日本の大企業はどうすればイノベーションを生み出せるのか?前編となる今回は、大企業の新規事業が停滞する要因と、新規事業を成功に導くための「4つの鍵」について話を聞いた。(前編/全2回)
■【前編】“大企業”が挑んだ大胆な手法、NEC発のAI企業はなぜ早期事業化できたのか?(今回)
■【後編】新事業創造に向けコミュニケーション活発化、効果絶大だったNECの仕掛けとは
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「守りの姿勢」が新規事業停滞の原因に
――著書『大企業イノベーション 新規事業を成功に導く4つの鍵』では、大企業ならではの困難を乗り越え、イノベーションを起こすためのポイントについて解説されています。近年、日本企業のイノベーション創出は進んでいるのでしょうか。
北瀬聖光氏(以下敬称略) どんな大企業でも、VUCA(物事の不確実性が高く、将来の予想が困難な状況)と呼ばれる現代において自社だけでイノベーションを起こすことは難しいと実感しているはずです。政府や経団連も、日本の競争力を高めるためにオープンイノベーションの推進を掲げており、その重要性は近年かなり浸透してきました。
しかし、日本企業のイノベーション創出は大きく後れを取っています。ユニコーン企業の数を見ても、2010年から2019年までで累計1位のアメリカが207社、2位の中国が102社、3位以降はイギリス21社、インド18社と続きますが、日本はわずか3社です。日本の大企業には国内の全従業員の38%、総資産の6割強、知的財産の85%が集中しているにもかかわらず、イノベーションの担い手になれていないのです。
──なぜ、日本の大企業の新規事業の取り組みは停滞しているのでしょうか。
北瀬 「守り」の姿勢が根底にあるからだと思います。
大企業には主力の既存事業が存在しており、安定した収益、巨大な組織、株主をはじめとするステークホルダーの利益、知的財産、社会的評価など、守るべきものがたくさんあります。だからこそ、新たな取り組みを始める際にも「守り」に軸足を置きがちです。
NECも例外ではありませんでした。それゆえに、数々の新規事業に取り組みながらも、短期間での成果を求められたり、育成に時間を十分にかけられないまま新規事業が既存の事業部門に移行されてつぶれてしまったりして、成果に結びつかないことが度々起こりました。
──NECは、そうした中で改革に着手したのですね。
北瀬 はい、順調に事業を拡大してきましたが2000年をピークに売上高が下降線をたどっていきます。2012年にはついに株価が100円を切りました。そして2013年、「このままではNECの未来はない」という当時の経営陣の強い危機感から、CEO直轄の新規事業創出をミッションとした本社部門組織「ビジネスイノベーション統括ユニット(以下、BIU)」が設立されました。こうした経緯があり、イノベーション創出に力を入れるようになったのです。
それ以来、BIUが主導となり、「事業ビジョンの欠落」「コミュニケーションの齟齬」「評価制度の問題」など、新規事業が停滞する数々の要因を解決してきました。その結果、海外でのスタートアップ設立に成功し、海外企業との協業によってAI創薬事業やヘルスケア分野への進出を果たすことができたのです。