主力事業が安定収益を上げている大企業が新規事業開発に取り組もうとすると、そこには大きな壁が立ちはだかる。さまざまな理由で「見込みなし」と判断されて、事業の芽が摘まれてしまうのだ。NECはこうした困難を乗り越え、2023年に米国で新興9社の設立にこぎつけた。いかなる経緯で新会社設立に至ったのか。前編に続き、書籍『大企業イノベーション 新規事業を成功に導く4つの鍵』(幻冬舎)を上梓したNEC Corporate SVPの北瀬聖光氏に、新規事業を成功に導く鍵について話を聞いた。
■【前編】“大企業”が挑んだ大胆な手法、NEC発のAI企業はなぜ早期事業化できたのか?
■【後編】新事業創造に向けコミュニケーション活発化、効果絶大だったNECの仕掛けとは(今回)
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新規事業に「既存事業の評価制度」は馴染まない
──前編では、著書『大企業イノベーション』で解説されている「新規事業を成功に導く4つの鍵」のうち、第1の鍵「事業ビジョン」と第2の鍵「チームビルディング」についてお聞きしました。第3の鍵に挙げられている「評価制度改革」は、どのようなものでしょうか。
北瀬聖光氏(以下敬称略) 新規事業の特性を考慮した評価制度がない限り、新規事業開発に何度挑戦しても「開発に時間がかかりすぎている」「いつになったら売り上げが出るのか」といった理由でつぶされ続けることになります。評価されない仕事は続けられないものです。
多くの大企業は、新規事業についても既存事業と同じように、初年度から売上と利益で評価しています。しかし、新規事業で売り上げが立つまでには複数の段階を踏まなければなりません。初年度から売り上げと利益が出るのはまれですので、新規事業に既存事業の評価制度はなじまないのです。
そこでNECでは、新規事業開発の進捗に合わせた評価基準を作成しました。新規事業開発の3段階に合わせて、評価方法も変えるようにしたのです。
事業構想から初期の仮説検証を行う段階では「プロセス評価」、粗いビジネスプランの策定から単年度黒字化を目指す段階では「事業価値評価」、単年度黒字以降では「実績評価」としました。
この評価制度の肝は、「仮に、今進めている事業を社外に売却した場合、いくらの値がつくか」を示す「事業価値評価」を取り入れた点です。ここでは、ベンチャーキャピタルがスタートアップに投資をするか否かを決める際の評価方法を参考にしています。