出所::日刊工業新聞/共同通信イメージズ

 2010年1月、戦後最大の負債を抱え、事実上倒産となった日本航空(JAL)。それまで赤字続きだった同社は京セラ創業者の稲盛和夫氏を会長に迎え、わずか2年8カ月という短期間で再上場を果たした。その背景にあったのが、「アメーバ経営」をベースにした部門別採算制度の導入だ。2024年6月に著書『組織行動の会計学 マネジメントコントロールの理論と実践』(日経BP 日本経済新聞出版)を出版した一橋大学大学院経営管理研究科教授の青木康晴氏は、稲盛氏の再建手法を「マネジメントコントロール」という管理会計の視点からひもといた。同氏にJAL再建を支えた管理会計の大転換について聞いた。(前編/全2回)

本稿は「Japan Innovation Review」が過去に掲載した人気記事の再配信です。(初出:2024年10月8日)※内容は掲載当時のもの

「組織の戦略実行力」を高めるために欠かせない仕組み

――著書『組織行動の会計学』では、組織全体の目標達成のために欠かせない仕組みとして「マネジメントコントロールシステム(以下、MCS)」を解説しています。MCSは企業経営にどのようなメリットをもたらすのでしょうか。

青木康晴氏(以下敬称略) MCSを構築することのメリットは「戦略の実行力が高まる」点です。どれほど優れた戦略も、適切に実行できなければ競争力や業績を高めることはできません。

 経営陣としては、策定した戦略を社内に周知した後、従業員が一丸となって戦略を実行してくれる状態が理想でしょう。しかし、戦略策定に直接関わっていない従業員が「自分たちには、どのような行動を求められているのか」を理解し、経営陣の意図したとおりに行動してくれるケースはまれです。

 仮に、求められている行動を理解していても、個人の利害や感情によって経営陣が望む行動をとってくれないことも少なくありません。MCSは、こうした状況下で、従業員一人一人の「望ましい行動」を引き出すための仕組みです。

――MCSは、どのように構築するのでしょうか。