生成AIをはじめとするテクノロジーの進化が加速する一方、日本のDXは遅々として進まず、「デジタル後進国」との烙印を押される状況にある。日本がデジタル化で遅れを取った本当の理由はどこにあるのか。AI時代に挽回を図るために日本は何をすべきなのか。前編に続き、『デジタル社会の罠 生成AIは日本をどう変えるか』(毎日新聞出版)の著者でデジタル技術・文明研究の第一人者である東京大学名誉教授・西垣通氏に、日本がデジタル社会を切り拓き、AI時代に真に「知」の使い手となるための方策を語ってもらった。(後編/全2回)
■【前編】東大・西垣名誉教授がブームに警鐘、生成AIを信用してはいけない2つの理由
■【後編】AI時代の文化論、日本人はなぜ心の底で「AIが人間を超える」とは信じないのか(今回)
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日本がデジタル化に乗り遅れた「本当の原因」
――著書『デジタル社会の罠』によると、日本のデジタル技術は20世紀後半には高いレベルにあったとのことですが、21世紀に入り、日本はデジタル後進国に位置づけられてしまっています。その原因はどこにあるとお考えでしょうか。
西垣通氏(以下敬称略) 日本のデジタル技術は、1970年から1980年代には世界に冠たる水準にありました。
たとえば、当時の銀行の全国統合オンラインシステムや新幹線の運行管理システムなどは、プロの技術者たちが膨大な知力と情熱を注ぎ込んで設計・開発し、途方もない回数のテストを繰り返すことで、信頼性の高い完璧な品質・性能のシステムが作り上げられていたのです。その分、かなり高価ではありましたが、日本が持つ技術力は模範的水準と呼べるものでした。
ところが、90年代後半以降になると、米国からパソコンやインターネット、携帯電話といった安価で大量生産された技術・製品が次々と入ってきました。
価格が安い製品は多くのユーザーに喜ばれ、広く普及しました。完璧なシステムではなく間違いも多くありましたが、メーカーとしてもできるだけ早く安い製品を出して、「間違いが見つかったら、皆で直せばいい」「改良しながら、前に進もう」という考え方に徐々にシフトしたのです。
この時点で日本は世界のデジタル化の波に乗り遅れてしまったのではないでしょうか。それは、決して日本の技術力の問題でも安い価格設定の問題でもなく、米国と日本の「文化的差異」によるものと考えられます。