DX推進が進まない理由として人材不足を挙げる企業は少なくない。だが横浜市立大学 データサイエンス推進センターの小野陽子准教授は、企業が「自社にはDX人材がいない」と誤解しているケースもあると指摘する。日本の「DX人材不足」の本当の原因は何か。より多くの人材がDXの現場で活躍できるようにするために、企業と大学はどう変わっていくべきなのか。小野氏に話を聞いた。
企業の「DX人材不足」「進まないAI活用」には誤解が多い
——小野先生は多くの企業と協力してAIによるデータ活用の推進や人材育成などを進めています。そうした企業が語るDXの課題に共通点はありますか。
小野陽子氏(以下敬称略) よく聞くのはDX人材の不足ですが、実は不足していないのに不足していると感じている場合も多いのです。
例えば、企業が「プログラミングができる人材がいない」と感じている場合、本当は能力のある人がいるのに「どの程度のプログラミングスキルが必要か」「そのスキルをもった人材にどんな業務を担ってほしいのか」がはっきりしていないために適任者を選び切れていないということもよくあります。
AIの導入に関しても、「AIを使って何をしたいのですか」と聞くと、答えが返ってこないことが多くあります。いずれの場合も目的がはっきりせず、ただ漠然と「DX人材が足りない」「AI活用が進んでいない」と焦っているように感じています。
——DX人材の育成やAI活用に関して、企業が焦ってしまう理由はどこにあるのでしょう。
小野 今までの日本企業には、社員に時間をかけて教育を施し、徐々にスキルアップしてもらうシステムがありました。しかし、デジタル化が進んで変化が早くなった現在、その時間とゆとりがなくなったと感じる企業が多いのだと思います。そうした企業では「まずはやってみる最初の一歩を踏み出すこと」が重要です。
最近ではノーコードツールや生成AIなど、エンジニアでなくても簡単な操作でソフトを開発できるツールが増えています。「スキルが足りないからできない」と考えるのではなく、まずは活用してみることが大切だと思います。デジタル活用に関わるのは「ICTの部署だけ」「エンジニアなど技術を持った人や好きな人だけ」という考え方では、多くの企業が感じている「DX人材不足」は解決できないでしょう。
——DX推進のハードルを上げず、広く社員が関わることが重要だということですね。
小野 その通りです。生成AI の活用などはまさにそうすべきです。デジタルのスキルが十分ではない社員でも、自分が担当する分野では高い専門性を持っているはずです。生成AIの活用は、そうした専門性の高い社員とデジタルスキルを持った社員が一緒に取り組むことで、大きな効果が生まれると思います。社員全員が新しい技術に付いていく必要はなく、個々の社員が持っている専門性を掛け合わせていくことが、企業を変革するDX推進につながっていきます。