ごみ焼却発電施設や洋上風力発電、橋梁など環境・エネルギー分野でインフラ設備を製造する日立造船。同社は2025年度までに製品IoT化比率60%、DX人材500人の育成を目指し、全社的なDXの推進に力を入れている。
DX推進のために設立されたデジタル戦略企画室の室長、白川哲也氏は、日立造船特有の課題を「縦割り組織」にあったと振り返る。一方で、ウェブ黎明期に宿泊施設予約サイトを創出したり、自社オリジナルのドローンを開発したりと、各部署に新規事業を行う素地は備わっていた。そこで、デジタル戦略企画室は次期管理職を対象に「新規事業をスケール」させるための研修制度(DXリーダー研修)を企画。現在は「DXリーダーに“デザインシンキング力”がついてきたと実感する」(白川氏)という。
日立造船はDX人材育成のために、どのような施策を打っているのか。白川氏に話を聞いた。
縦割り組織で全社的なDXを推進できるのか?
――さまざまな領域でインフラ設備を製造する日立造船ですが、DXを進める上での課題はどんなところにあったのでしょうか。
白川哲也氏(敬称略) 当社は事業分野が多岐にわたる分、全社的な共通言語を持ちにくいという課題がありました。部署の垣根を超えた人事異動もほとんどなく、各事業がいわば「中小企業の寄せ集め」のような状態になっています。それはそれで、必ずしも悪いことだけではなく、エンジニアリング技術のノウハウの蓄積や人材育成面ではメリットがあったことも事実です。
ただ、今後は脱炭素社会の到来やIoT機器の浸透など、外部環境の急速な変化に対応していかなければならないという問題意識がありました。そこで、2021年度に中期経営計画とリンクした全社DX戦略を策定し、KPIとして2025年度までに、製品IoT化比率60%、DX人材500人の育成という野心的な目標を掲げています。
こうしたDXを進めることで成長事業・高収益事業の創出を後押しし、2030年度に営業利益率10%(2022年度は4.1%)の達成を目指しています。
――具体的には、どのような施策を打っていますか。
白川 まずは、社内でDXに関する共通言語を策定しました。それが、①事業DX、②企業DX、それらを支える③DX基盤の3つです。①は事業の変革、②は業務効率向上、③はIoT基盤の強化やDX人材育成などを指しています。これら3つは抽象的なコンセプトではあるのですが、利点は覚えやすく、全社的なDXを進める上で必要な要素を網羅しているところにあります。
縦割り色が強い組織で新しい考え方を根付かせる上では、最初に呼びかける人の存在が非常に重要になってきます。デジタル戦略企画室がこうしたコンセプトをまず打ち出すことで、「うちの会社ではDXを進めていくんだ」という文化を社内全体に醸成させようとしています。