人事部門の役割が、従来の人事・労務からHR(人的資源に関係する業務全般)へと広がっている。企業の成長のためには、従業員を会社の“資産”と捉え、その能力を最大限まで引き出すことが欠かせなくなっているからだ。だが、企業規模が大きいほど、対応のための課題は多い。三菱重工業では、国内グループ約4万人の従業員を対象とした人事システムの大規模な刷新を行った。HRDX(Human Resources Digital Transformation)は人的資本経営の推進にどのように寄与できるのか。三菱重工業 HRマネジメント部の引地淳部長に話を聞いた。
役割が管理からビジネスパートナーへ変わった
――三菱重工業では2019年度から本格的にHRDXを進め、人事システムの刷新に取り組み始めました。2021年10月にはグループ会社まで含めた共通のHRシステムを稼働させています。それにより、グループにどのような変化がありましたか。
引地淳氏(以下敬称略) さまざまな成果が出ています。例えば、人事システムの刷新と同時にグループのHR業務をMHIパーソネルというグループ会社に集約させましたが、これによりコスト低減が図れると同時に、オペレーション人員をHRDX推進前の半数近くまで削減できました。
また、これは製造業の特性なのですが、作業現場にいる技能系従業員は全員がパソコンを使い、仕事をするわけではありません。そのため、これまで従業員へのさまざまな通知は全て紙ベースで行っていましたが、クラウド人事労務ソフトを導入することで、給与明細や年末調整などの閲覧を個人のスマートフォンで確認できるようになりました。2021年12月の年末調整時には1000件超あった問い合わせが、2022年12月には激減し、給与明細もWeb化したので紙による配布は現在30人程度にまで減っています。当初は防衛など機密性の高い事業に関わる部門で個人デバイスを使用することに反対もありましたが、現在は他部門でも導入できないかという相談が増えています。
――HRDXに対する社内の期待度は高まっていると感じていますか。
引地 そう感じています。これまでの人事部門は「従業員を管理する、支援する」という位置付けでしたが、現在は「各部門が立てた戦略を実行していく上で何ができるのかを考え、各事業部門に貢献できる真のビジネスパートナーになる」という役割に変わってきています。HRDXは経営戦略や事業戦略の推進を支える有力な手段であり、われわれも最も重要なユーザーは従業員であるということを念頭に、自らの役割を果たしていかなければならないと考えています。