総合電機メーカーとして、発電機、FA機器、エレベーター、IT、エアコンなどを幅広く扱う三菱電機は、2021年6月に自社業務のDXに1000億円超を投資することを公表。さらに2022年5月には、「循環型 デジタル・エンジニアリング企業」への変革を宣言している。「10年かけてもやり切る」という三菱電機自らの業務DXの概要やその意義、超えなければならない課題をキーマンに聞いた。

9つの事業本部による個別最適から三菱電機としての全体最適を目指す

―― 今取り組んでおられる業務DXは、連結売上高4.4兆円、連結従業員14.5万人※1の大企業である三菱電機にとっても大きな変革と感じます。変革に至った理由や経緯などをお聞かせください。
※1 2022年3月期

三谷 英一郎/三菱電機 常務執行役 ビジネスプラットフォームビジネスエリアオーナー インフォメーションシステム事業推進本部長 CIO(情報セキュリティ、IT担当) プロセス・オペレーション改革本部長

1985年に三菱電機株式会社入社、コンピュータシステム製作所(当時)配属となり、総合商社向け次世代通信システム等の構築プロジェクトを担当。1997年から4年半シリコンバレー地区駐在。帰国後、神戸製作所で監視制御システム共通プラットフォーム開発、航空管制システム等の構築プロジェクトを担当する。入社以来ほぼ一貫して大規模システムのプロジェクト管理業務に従事する。2021年より社内のDXを推進するプロセス・オペレーション改革本部長。2022年4月より現職。
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好きな言葉:「誠意」
注目の企業:日立製作所、富士通、IBM

三谷英一郎氏(以下敬称略)  総合電機メーカーとしてこの先も戦っていけるのか? ということに対して、社内で疑問符が付き始めたのは今から4、5年前頃のことだったと記憶しています。それぞれの事業本部(含:事業推進本部)が個別最適ではなく、全体最適によってシナジーを創出していくことの重要性については認識していたものの、各事業本部がそれぞれに損益責任を持つ中で、なかなか「横連携」への舵を切れずにいました。その間に、他社はリーマンショックを起点とした大改革を着実に進めていた。当社は、リーマンショック時に赤字にならず「財務の優等生」などと言われ、コーポレート側も9つの事業本部の管理に注力していれば問題ないと、いささかグループ全体の方向性への配慮が薄かった面もあったと思います。結果、他社との差は開いていく一方でした。

 いよいよこのままではまずい、という危機感のもと、社内DXをミッションとする「プロセス・オペレーション改革本部」を設立したのが2021年4月のことです。さらに同年6月の経営戦略説明会において、業務DXに1000億円超を投資することを公表しました※2。当社は2021年に創立100周年を迎えたのですが、ここで根本的に改革しなくては次の100年を乗り切れないという強い覚悟を持って、社内改革に取り組んでいます。

 当社にとって大きな変革であることは前述の通りですが、日立さん、富士通さん、IBMさんなど、皆さんそれぞれに変革を進めてこられています。組織作りや目指す姿の検討にあっては、こうした先行他社の取り組みや事例を参考にさせてもらっています。

――さらに2022年には「循環型 デジタル・エンジニアリング企業」への変革を目指すことを掲げられています。ここに至った経緯やその概要は?

三谷 今まで、私たちはエンジニアが良いハードウェアを作って、顧客に提供することが使命と捉えていました。もちろん、これまでもエレベーターなどのハードウェアを納品して、その保守を請け負うといったアフターサービス事業も展開していましたが、顧客がその機器を何時頃に一番使うのか、何のために、どのような組み合わせで使っているのかといった顧客のニーズにまで踏み込んだ分析はできていませんでした。

 しかしながら、いずれハードウェアはコモディティ化し、顧客のニーズがデータやサービスに移っていくことは明白です。今後は、単にハードウェアを供給するだけでは生き残っていけないかも知れない。ではそれを回避するためにどうすべきかというと、機器を中心にしつつも、機器から集まるデータ、例えばその機器の使われ方、頻度、また他のサービスとの組み合わせなどにも注目する必要があると考えました。これからは機器のみならず、機器から集まるデータを吸い上げ「循環」させながら、これまで強みとしてきた「エンジニアリング力」に、さらに「デジタルの力」も融合させることで、新しい価値を生み出していかなくてはならないと考え、目指す姿として掲げたのがこの「循環型 デジタル・エンジニアリング企業」です。もちろん、新たに提供する価値は、顧客に「お金を払っても良い」と思ってもらえるものでなくてはなりません。マネタイズまでしっかりやり切ることが肝要と考えています。

三菱電機が目指す、統合ソリューションを踏まえた「循環型 デジタル・エンジニアリング企業」
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 当社が、この「循環型 デジタル・エンジニアリング企業」に変革するために重要なのがDXです。それぞれの事業本部が得意分野を持って集まり、顧客データに、自らの知見やノウハウを組み合わせることで、今までになかった価値を創造するためには、従来の事業本部ごとの個別最適ではなく、事業本部の枠を超えた全体最適を目指す必要があります。

――目指す全体最適とは、具体的にはどういったイメージでしょうか。

三谷 これまでの個別最適の一例として、社内システムのケースをお話しします。前述の通り、これまでは9つの事業本部が、それぞれの事業特性に応じて事業拡大を進めてきました。結果として、投資も各事業本部の裁量で行ってきたため、購買、経理などの業務システムが社内で統一できておらず、グループ全体の情報システムの総数は今や膨大な量となってしまっています。社内で別の部門にデータを渡す際には、次の部門が使えるようにデータを変換したり、時にはエクセルにまとめ直して転送したり、いわばデータのバケツリレーを行っているような状況でした。これではスピーディーな対応や、多様なデータを多様に分析するといったことも難しくなります。

 こうした課題を解決するために、必要となるのが全体最適です。その実現にあたっては、事業を横断した「業務の共通化」と「データの一元化」が鍵だと考えています。

 具体的には、事業本部を超えた業務プロセスの標準化、既存の情報システムの統廃合、データを全社横串で使えるようにするインフラの整備・構築、データを効果的に活用できるデジタルツールの導入などが挙げられます。私たちは、こうした投資を通じて、経営管理の高度化、生産性向上につながる「業務DX」を推進していきたいと考えています。

※2:こうした一連の発表をした直後、2021年6月に鉄道用空調設備の不適切検査が判明する。しかしこれでDXが止まるということはなく、ますますその必要性が増したと思われる。なお本件は、三菱電機として2022年10月に最終報告書を公表。再発防止への改革等を報告した。