大手エンジニアリング企業を傘下に持つ日揮ホールディングスがデジタルトランスフォーメーション(DX)に着手したのは石油メジャーに業務効率化を迫られたからだった。極めて受動的な第一歩だったが、その後は迅速かつ戦略的なITグランドプラン2030の策定と実行でDXを前進させている。同社で人事最高責任者(CHRO)とデジタル最高責任者(CDO)を兼ねる花田琢也氏は、Why(なぜ実現するのか)こそDXの起点にあるべきであり、デジタル技術はイネーブラー(実現したいことを可能にさせるもの)だと話す。
DXを迫ってきたのは石油メジャー
――日揮ホールディングスがグループのデジタルトランスフォーメーション(DX)に意識的に取り組んだ経緯はどういったものでしたか。
花田琢也氏(以下敬称略) 2017年11月、私どもの会長(佐藤雅之氏)と社長(石塚忠氏)が、私たちの重要取引先である石油メジャーを訪問した際、同社トップから「2030年までに工数をいままでの3分の1に、またプロジェクトの速度を2倍にしてください。そうしないと日揮グループは市場から退出することになる。鍵はデジタルだ」という「アドバイス」を受けたのです。
私はよく企業の取り組みを、Why(なぜ実現するのか)、What(なにを実現するか)、How(どのように実現するのか)に分けて考えますが、この出来事はいわば外部から、日揮グループにとってのデジタルトランスフォーメーションのWhyを「市場で生き残るうえで仕事のやり方を変えなければならない」と、与えられたようなものです。
経営トップの帰国後すぐ、私が最高デジタル責任者(CDO)に指名され、情報技術(IT)のグランドプランを半年で作るようにと言われました。そこで、Whyに対して、2030年という未来からバックキャストして、WhatとHow、つまりなにをどう実現していくかの計画を「ITグランドプラン2030」として策定していったのです。
――ITグランドプラン2030策定の実行部隊は。
花田 2030年の時点で活躍していることになる30歳代から40歳代の社員です。デジタルにもっぱら詳しい社員だと話がHowばかりになってしまうと考え、WhyやWhatの視点をもてる事業系のエース級30名をチームにしました。私と社員たちの間には、諸葛亮孔明のような知恵袋の同期社員に入ってもらえたのも組織として機能しました。また、プラン策定期間は半年と限られていたこともあり、コンサルタントは使いませんでした。
――プランはどういう形になりましたか。
花田 あくまでWhyがあることを前提に、WhatとHowをロードマップに描いた形です。AI設計のようなエンジニアリング関連の筋から、スマートコミュニティのようなプロジェクトマネジメント関連の筋まで5つのイノベーションに分けて、達成目標年や難易度も整理しました。全体的には、エンジニアリング企業の役務である「設計・調達・建設」(EPC:Engineering, Procurement, Construction)に大きな変革を起こしていく道筋を描けたと思います。