NTTコミュニケーションズが主催するオンラインバーチャルイベント「NTT Communications Digital Forum 2021」において、「未来を切り拓くDX」をテーマに日本を代表する大企業の最高デジタル責任者(CDO)、最高情報責任者(CIO)、 最高デジタルイノベーション責任者(CDIO)など、DXを推進している方々によるエグゼクティブラウンドテーブルが開催された。ニューノーマル時代に向けてDXが待ったなしの状況になる中で各社はどうDXに取り組んでいるのか。一橋大学教授の神岡太郎氏がモデレータを務め、目指すべき姿を見据えながら、今後、DXをどう推進していくのかを語り合った。

日本を代表する6社のDX

 ラウンドテーブルは各社のDXの取り組みについての紹介からスタートした。造船業から始まり、現在は多種多様な重機を製造する株式会社IHIの常務執行役員高度情報マネジメント統括本部長である小宮義則氏は「当社の問題点はサイロ構造にあります」と語る。18のビジネスユニットがあり、各事業の業務プロセスの独立性が高いことがDXを阻む壁となる。

株式会社IHI 常務執行役員 高度情報マネジメント統括本部長 小宮 義則氏

 そこで同社では3つの柱を立ててDXへの取り組みを強化している。ビジネスモデル改革と業務プロセス改革、そして働き方改革だ。具体的には、物売りからコト売り、バリューチェーンの最適化、働き方のデジタル化である。「それらの前提となるデータドリブン経営のためにデジタイゼーションを推進し、データをサイロ構造の中から取り出しているところです」と小宮氏は現状を語る。

 プラント大手の日揮ホールディングス株式会社の常務執行役員CDOの花田琢也氏はエネルギープラントの写真を示し、「スケールとしては大きいのですが、いまだに勘と経験と度胸でプロジェクトが遂行されています」と指摘する。その同社が品質の向上のために掲げているのが2030年のあるべき姿から計画を立てた「IT グランドプラン 2030」である。

 そこでのキーワードの一つが「デジタルツイン」だ。デジタルツインとは、現実の世界から収集したさまざまなデータを、コンピュータ上で再現する技術のことであり、コンピュータ上で現実に近い物理的なシミュレーションが可能になる。「当グループの特徴は技術の統合化です。それを象徴しているのがデジタルツインです」と花田氏。オフィスでデジタルツインのボタンを押すと、現場で実際にプラントが作り上げられる。そんな世界が未来のエネルギープラントの姿である。

 続けて話をしたのは、株式会社三井住友フィナンシャルグループにおけるデジタル戦略の総取りまとめ役である執行役専務グループCDIOの谷崎勝教氏だ。その役割は業務効率化やマンパワーの削減ではなく、テクノロジーを駆使して新しい事業やサービスを創り出す仕組みを構築することにある。

 その象徴がデジタル子会社だ。2021年7月には電通グループとの合弁会社を設立した。「金融の分野から非金融の分野にどう進出するのか、要となるサステナビリティを担保するためにどういうビジネスモデルに変えていくのか、お客さまとの関係の中で考えていきます。それをアジア、さらにグローバルにどう進めていくのかという視点も大事になります」

ヤマトホールディングス株式会社
専務執行役員 牧浦 真司 氏

 ヤマトグループは、経営構造改革プラン「YAMATO NEXT100」で、DXとCX(Corporate Transformation)を一体推進している。ヤマトホールディングス株式会社 専務執行役員 牧浦真司氏は「宅急便を中心とした経営構造で長年やってきましたが、40年以上経つと、ほころびも見えてきました」と改革の背景を語る。

 牧浦氏は「新しいぶどう酒は、新しい革袋に入れるもの」という『マタイによる福音書』の言葉を引用し、「それが『YAMATO NEXT100』の基本コンセプトです。DXという新しいぶどう酒は、CXという新しい革袋に入れなければなりません。DXとCXの一体推進が重要です」と話す。「お客さま起点」「データ・ドリブン経営」「共創」という3つの柱を基本戦略に掲げ、その実現を目指している。

 感動創造を企業目的に掲げ、モビリティやロボティクス技術を活用し、より良い社会と豊かな生活の実現を目指すヤマハ発動機では、顧客と共創し継続的なイノベーションを実践する「未来を創る」、デジタルで現業を変革して強化する「今を強くする」、経営の高度化、予知型経営の実現と共に、基幹業務の標準化と効率化による人的リソースの差別化領域へのシフトを進める「経営基盤改革」の3つの柱を掲げてDXを推進している。

 ヤマハ発動機株式会社 執行役員IT本部長 山田典男氏は「これらの3つのDXによってヤマハの世界観をリアルとデジタルの両輪でお客さまに訴求し、ブランド価値を高めると同時に、社員のやりがいや成長と社会課題の解決につなげていきたい」と語る。

 最後に、NTTコミュニケーションズ株式会社 代表取締役副社長 副社長執行役員の菅原英宗氏は、新たな事業ビジョンとして「Re-connect X」を紹介した。「それぞれが持つ価値を問い直し、もう一度つなぎ直すことで、変化の大きな時代を乗り切っていきたい」
とその狙いを語る。

 具体的には、安心・安全・柔軟なICTのトランスフォーメーションを進め、そのうえでデータと価値をつなぐデータ利活用プラットフォームを提供し、それを顧客に利用してもらうことでSmart Worldを実現するというものだ。

 菅原氏は「お客さまとの共創によって新しい世界を創ることを目指すとともに、プロセス改革、ワークスタイル改革、データドリブン経営で自社のDXを推進しています」と語る。顧客との共創こそがDXのベースとなるものだといえるだろう。